日経24.11.7朝刊 高齢者の労災防止要請 職場の危険度点検
2024年11月7日 日経新聞 朝刊によると、厚生労働省は2025年の通常国会において労働安全衛生法の改正案を提出し、高齢者に配慮した職場環境の整備を企業に求める方針を示しました。この法改正は、企業に高齢者向けの労災防止対策を努力義務として導入することを目指しています。背景には、60歳以上の雇用者が20年間で倍増したことや、高齢者の労災増加があります。2023年の労災による死傷者数は13万5371人に上り、その中でも特に高齢者の労災が目立っているのが現状です。
記事によれば、労働安全を高めるために具体的な施策として、段差の解消といった物理的なハード対策だけでなく、作業内容の見直しを含むソフト面の整備も想定されています。また、定期的な健康診断の他に高齢労働者向けの体力チェックを導入し、業務を各人の健康状態に応じて割り振ることが求められると報じられています。これにより、個々の高齢労働者の特性を踏まえた働きやすい環境作りが進むことを期待されています。
記事は、高齢者の労災防止に向けた企業の対策状況にも触れています。現在、60代以上の労働者が働く事業所は全体の78%に達していますが、実際に高齢者に向けた労災防止対策を取っている事業所は2割弱にとどまるとのことです。厚労省はこれまでに「エイジフレンドリーガイドライン」を公表し、中小企業向けに最大100万円の補助金制度を設けていましたが、企業の対応は十分とは言えない状況です。今回の法改正によって、この取り組みがさらに拡充されることが期待されています。
事務所としての見解
当社労士事務所として、この法改正の方針は中小企業の経営者や管理者にとって重要な機会だと考えます。
高齢化社会において、60代以上の労働者が担う役割は年々増しており、その労働力を安全に活かすためには、企業が積極的に環境を整備する必要があります。高齢者の労災は企業の経営リスクのみならず、労働者の家族や社会全体にも大きな影響を及ぼします。特に、少ない人員で事業を運営する中小企業や介護・福祉事業所にとっては、労災が事業継続性に直結する課題となり得ます。
今回の厚労省の提案は、企業が自発的に労働環境の改善を行うための具体的な指針を提供し、従業員が安心して働ける環境を促進する大きな一歩です。企業はこの動きをただの「義務」として受け取るのではなく、積極的に「投資」として捉えることで、より持続可能な運営を図ることができます。
例えば、段差の解消や手すりの設置は、高齢者だけでなく他の従業員や来訪者にとっても安全な環境を提供します。また、体力チェックを導入し、一人ひとりに適した作業内容を割り振ることは、高齢労働者の健康維持だけでなく、全体的な業務効率向上につながります。こうした対策は長期的に見れば、企業の生産性と評判の向上に貢献します。
企業がこのような改正に対応する際には、補助金制度の活用が一つの助けとなります。具体的には、スロープや手すりの設置などに必要な設備投資を国の補助金を使って行うことで、負担を軽減しながらも必要な改善を図れます。このため、私たちの事務所では中小企業がこうした制度を最大限に活用できるよう、情報提供や申請サポートを行っています。
まとめ
高齢労働者の労災防止は企業にとって生産性向上とリスク軽減の両方をもたらします。高齢化社会における労働力維持は、企業の持続的成長や社会への貢献を確保するために重要です。今回の厚労省の提案は、中小企業や介護・福祉事業所にとって負担に感じられるかもしれませんが、長期的には従業員の安全を確保し、企業価値を高める投資です。私たちの事務所では、このような法改正に対応するためのサポートを積極的に行い、顧問先が効率的かつ適切に対応できるよう、引き続き情報提供や実務支援を行ってまいります。