コンサルティング会社に要注意!就業規則作成を依頼する前に確認すべき法的要件
序章: A社の選択
A社は、従業員が50人を超える中小企業です。経営者である田中さん(仮名)は、業務拡大に伴い、就業規則を再整備する必要性を感じていました。しかし、社内には法務や労務の専門家を抱える余裕がなく、どう進めるべきか頭を悩ませていました。
そんな中、田中さんの元に、税理士事務所や行政書士、さらにはコンサルティング会社から「就業規則作成代行サービス」の広告が届きました。「低価格で簡単に就業規則が作れる」という甘い言葉に、田中さんは一瞬心を動かされましたが、一方で「本当に社労士や弁護士でなくても大丈夫なのか?」という不安もよぎります。
就業規則の作成は誰ができるのか?
田中さんの不安は正しいものでした。就業規則の作成や変更は、労働法令に準拠する必要があり、非常に重要な業務です。これを行うためには、社労士法第2条第1項第2号に基づき、社会保険労務士(社労士)や弁護士のみが担当できると法律で定められています。
さらに、社労士資格を持っていたとしても、社労士事務所や社労士法人に所属していなければ、報酬を得て就業規則を作成することは法律違反となります。
茨城県社会保険労務士会よくある質問(「 例えば税理士事務所やコンサル会社等に社労士がいる場合、その事務所やコンサル会社に社労士業務を依頼できますか?」)
しかし、現実にはコンサルティング会社が「簡単・低価格」を謳い、こうした業務を代行しているケースが少なくありません。
彼らは、法律の隙間をついて「誰でもできる」という誤った認識を広めており、これが結果として企業に大きなリスクをもたらすのです。労働基準法や関連法令に準拠していない就業規則が作成された場合、その規則が無効となり、企業が法的責任を問われる可能性があります。
コンサルティング会社の甘言に注意
コンサルティング会社が提供する「就業規則作成代行サービス」は、しばしば安価で簡便な解決策として売り込まれます。しかし、こうしたサービスが実際にどれほどの価値を持つかは慎重に検討する必要があります。
彼らが提供するのは、法律に準拠しているかどうかも曖昧な、形式的な文書に過ぎないことが多いのです。もし就業規則が労働法に違反していた場合、最終的に責任を負うのは、その企業です。安価なサービスに飛びつく前に、そのリスクをしっかりと理解しておくべきです。
これは、社労士業務における責任と信頼性を確保するために設けられた法律のルールであり、これを軽視することは企業にとって非常に危険です。
社労士法第2条第1項第2号の意義
ここで改めて強調したいのは、社労士法第2条第1項第2号の意義です。この法律は、就業規則を作成するという重要な業務を、労働法に精通した専門家に委ねることを義務付けています。これにより、企業が適切な労務管理を行い、法令遵守を徹底することが求められているのです。
しかし、コンサルティング会社や、社労士資格を持っていても社労士事務所や社労士法人に所属していない者が、報酬を得てクライアント先の求めに応じてこの業務を行うことは法律違反となります。
彼らが作成する就業規則は、法的に有効でない可能性もあり、最終的に企業が大きな損失を被るリスクがあります。安易に「低価格で手軽に」といった表面的なメリットに飛びつくことは、企業経営者としての責任を放棄する行為に等しいのです。
小規模事業者も就業規則を作成すべきか?
B社の教訓: 休職規定の欠如がもたらした長期的な影響
もう一つの事例として、従業員8名の小規模事業所であるB社のケースを紹介します。
労働基準法第89条では、従業員が10名以上の事業所に対し、就業規則の作成・届出を義務付けています。
(作成及び届出の義務) 労働基準法 第八十九条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
したがって、従業員が10名未満の会社では、法的には就業規則の作成が不要です。しかし、従業員が10名未満であっても、就業規則を作成する場合、その作成業務は労働基準法に基づく帳簿書類の作成に該当し、これも社労士法第2条第1項第2号に規定される社労士の業務となります。
B社の社長は、就業規則の作成義務がないことを理由に、就業規則を作成していませんでした。しかし、ある時期にB社の従業員の一人がうつ病を発症し、長期の休業が必要になった際、就業規則が存在しなかったため、休職に関するルールがなく、適切な対応ができませんでした。その結果、従業員は長期間休職し続け、復職の見通しも立たないまま会社に籍を置く状態が続いてしまいました。もし、最初から専門家である社労士に依頼していれば、「休職満了による退職」といった条文が含まれた就業規則を作成することができ、このような事態は回避できたはずです。
C社の失敗: 懲戒規定がなく処分が無効となったケース
さらに、C社という事例も考えてみましょう。C社は従業員が9名の小規模事業所で、先ほどのB社同様、就業規則の作成をしていませんでした。
そのため、C社には懲戒処分に関するルールが定められておらず、ある課長が部下に対して明らかなセクシャルハラスメントを行ったにもかかわらず、適切な処分ができませんでした。結果として、会社は処分の無効を主張され、他の従業員の信頼を失い、職場環境も悪化してしまいました。
このようなケースでは、初めから専門知識を持った社労士に相談し、就業規則の作成を手掛けてもらっていれば、適切な懲戒規定が設けられ、企業も従業員も不幸な結果を避けることができたでしょう。
就業規則を整備しないリスク
就業規則の整備は、単なる形式的な義務ではなく、企業の持続可能な運営を支えるために不可欠なものです。就業規則がないことで、企業は様々なリスクを負うことになります。
例えば、労働条件が曖昧なまま放置されると、従業員の不満が募り、労使トラブルに発展するリスクが高まります。
特に、懲戒規定や休職規定がない場合、従業員に対する処分や対応が不明確になり、適切な労務管理ができなくなる恐れがあります。これらを回避するためには、就業規則を整備し、従業員との間に明確なルールを設けることが重要です。
専門家によるサポートの重要性
当事務所では、10人未満の小規模事業所においても、就業規則の作成を強く推奨しています。特に、休職や懲戒に関する規定は、労務管理の重要な部分であり、これを整備することで、企業は法的リスクを大幅に低減することができます。就業規則がないことで、経営に重大な影響を及ぼす可能性があるため、事業規模に関わらず、専門家のサポートを受けることをお勧めします。
社労士は、労働法令の専門家として、企業が法令遵守を徹底し、適切な労務管理を行うためのサポートを提供します。特に、法改正や労働環境の変化に対応するためには、専門家のアドバイスが不可欠です。社労士は労働法に基づく確かな知識と経験を持ち、企業のニーズに合わせたオーダーメイドの就業規則作成を提供します。
新たな視点の提案
企業が今後直面するであろう労働法令の改正に対応するためには、単に就業規則を整備するだけでなく、企業全体の労務管理の見直しが必要です。
特に中小企業や福祉事業所においては、従業員との信頼関係を構築し、健全な労働環境を維持することが重要です。当事務所は、企業の労務管理全般にわたるサポートを提供し、持続可能な経営を支援します。
結びに
このコラムを通じて、読者の皆様には、就業規則の重要性と、専門家によるサポートの必要性について深く考えていただければ幸いです。就業規則は単なる文書ではなく、企業と従業員双方の権利と義務を明確にし、トラブルを防ぐための重要なツールです。今後も引き続き、皆様の経営をサポートするための情報提供に努めてまいります。
【参考リンク】全国社会保険労務士会連合会「就業規則をはじめ、賃金規程や退職金規程ほか各種規程・規則の作成・見直し、届出ができるのは、社労士だけです。」