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コラム

企業が考えるべき育児・介護支援の次なる課題と解決策|次世代育成支援対策推進法の改正に関する省令事項(案)および指針事項(案)から

2024年9月13日、第71回労働政策審議会雇用環境・均等分科会が開催されました。
この中の議題の一つとして、次世代育成支援対策推進法の改正に関する省令事項(案)および指針事項(案)が示されました。この改正は、特に育児・介護の両立をサポートし、働きやすい環境を提供することを目指しており、中小企業や福祉事業所にとっても重要な施策です。

このコラムでは、この省令(案)を踏まえて、これがどのような影響を与え、中小企業や福祉事業所がどのように対応すべきかを詳しく解説します。

【参考資料】資料3-1 次世代育成支援対策推進法の改正を踏まえた主な省令事項
【参考資料】資料3-2 次世代育成支援対策推進法の改正を踏まえた主な指針事項

1. 一般事業主行動計画の見直し:より実効性のある計画づくりへ

何が変わるのか?

改正法では、一般事業主行動計画の策定・変更時に、以下の2点を重視することが求められます。

  1. 男性労働者の育児休業取得率の把握
  2. 労働者の労働時間(時間外労働や休日労働)の状況分析

なぜこの変更が必要なのか?

これまで、多くの企業で「計画を立てたものの、実態が伴っていない」という課題がありました。今回の改正は、より実態に即した、実行可能な計画づくりを促すものです。

中小企業・福祉事業所の皆様へ

  • 男性の育休取得状況の可視化:
    • 取得率だけでなく、取得期間や取得のタイミングなども記録しましょう。
    • 「取得しやすかった点」「阻害要因」などのヒアリングも有効です。
  • 労働時間の適切な管理:
    • 月ごとの労働時間を部署別、職種別に分析しましょう。
    • 繁忙期と閑散期の差が大きい場合は、業務の平準化を検討しましょう。

これらの取り組みは、単なる法令遵守以上の価値があります。従業員の満足度向上や人材確保にもつながり、長期的な経営戦略としても重要です。

2. 認定制度の見直し:ハードルは上がるが、メリットも大きく

認定基準はどう変わるのか?

認定の種類現行基準新基準
トライくるみん7%以上10%以上
くるみん10%以上30%以上
プラチナくるみん30%以上50%以上

一見すると「厳しくなった」と感じるかもしれません。しかし、この変更には重要な意味があります。

なぜ基準が引き上げられたのか?

  1. 社会全体の意識向上:男性の育児参加への期待が高まっています。
  2. 先進企業の牽引:高い基準を達成している企業が増えてきました。
  3. 「真の両立支援」の実現:形式的な取得ではなく、実質的な育児参加を促します。

中小企業・福祉事業所の皆様へのアドバイス

  • 特例措置の活用: 中小企業向けに、計画期間とその前の一定期間を合わせて計算できる特例があります。これにより、柔軟な対応が可能です。
  • 段階的な目標設定: いきなり高い基準を目指すのではなく、まずは「トライくるみん」からスタートし、徐々にレベルアップを図るのも一案です。
  • 認定取得のメリット再確認:
    • 人材採用時のアピールポイントになります。
    • 企業イメージの向上につながります。
    • 公共調達において加点評価される可能性があります。

認定取得は、単なる「お墨付き」以上の価値があります。従業員の満足度向上、優秀な人材の確保、さらには業績向上にもつながる可能性を秘めています。

3. 両立支援制度の強化:柔軟な働き方がカギ

何が求められているのか?

改正法では、以下の点が強調されています。

  1. 育児休業取得の促進(特に男性)
  2. 短時間勤務制度の充実
  3. 在宅勤務など柔軟な働き方の推進

なぜこれらが重要なのか?

  1. 少子高齢化対策:子育てしやすい環境づくりは、社会全体の課題です。
  2. 人材確保・定着:働きやすい職場は、優秀な人材を引き付けます。
  3. 生産性向上:柔軟な働き方は、意外にも生産性向上につながることが多いのです。

今後、目指すべき方向性

  • 制度の見直しと周知:
    • 既存の制度を棚卸しし、利用しやすくなっているか確認しましょう。
    • 制度の存在を知らない従業員がいないよう、定期的な周知を行いましょう。
  • 管理職の意識改革:
    • 管理職向けの研修を実施し、両立支援の重要性を理解してもらいましょう。
    • 「育休取得=評価減」といった誤った認識を払拭することが重要です。
  • 業務の棚卸しと再分配:
    • 育休取得者の業務を誰がカバーするか、事前に計画を立てましょう。
    • この機会に業務の無駄を省き、効率化を図ることも検討しましょう。

両立支援は「コスト」ではなく「投資」です。従業員の幸せは、顧客満足度の向上や業績アップにもつながります。

4. PDCAサイクルの確立:継続的な改善が成功の鍵

なぜPDCAサイクルが重要なのか?

  1. 実効性の担保:計画を立てただけでは意味がありません。実行し、評価し、改善することで初めて意味を持ちます。
  2. 環境変化への対応:働き方のニーズは常に変化しています。定期的な見直しが欠かせません。
  3. 従業員の声の反映:現場の声を聞き、計画に反映させることで、より実態に即した取り組みが可能になります。

中小企業・福祉事業所の皆様へのアドバイス

  • 定期的な振り返りの機会を設ける:
    • 四半期ごとなど、定期的なチェックポイントを設定しましょう。
    • 可能であれば、外部の専門家(社労士など)の視点も取り入れると良いでしょう。
  • 数値だけでなく、質的な評価も:
    • 育休取得率などの数値だけでなく、従業員の満足度調査なども行いましょう。
    • 退職理由の分析なども、重要な指標となります。
  • 好事例の共有:
    • 成功事例があれば、社内で積極的に共有しましょう。
    • 他社の好事例を研究するのも有効です。

PDCAサイクルは、単なる「やりっぱなし」を防ぎ、継続的な改善を可能にします。これは、人材マネジメントの質を高め、ひいては経営の質の向上にもつながります。

まとめ:変化を恐れず、一歩ずつ前へ

今回の法改正は、一見すると「また新たな負担が…」と感じられるかもしれません。しかし、これを「働きやすい職場づくり」の絶好のチャンスと捉えてみてはいかがでしょうか。

中小企業や福祉事業所には、大企業にはない「機動力」があります。トップの決断一つで、すぐに新しい取り組みを始められるのです。

一足飛びに完璧を目指す必要はありません。できることから、一つずつ着実に進めていくことが大切です。その積み重ねが、結果として大きな変化をもたらします。

中小企業が直面する課題と解決策

次世代育成支援対策推進法の改正は、中小企業や福祉事業所にとって大きな挑戦となる一方で、新たな可能性を開く機会でもあります。ここでは、中小企業によくある課題とその解決策について詳しく見ていきましょう。

課題1:人手不足での両立支援

多くの中小企業では、慢性的な人手不足に悩まされています。そんな中で、育児休業の取得を促進するのは難しいと感じるかもしれません。

解決策:

  • 多能工化の推進: 従業員が複数の業務をこなせるようにトレーニングすることで、誰かが休んでも対応できる体制を作ります。
  • 業務の棚卸しと効率化: 本当に必要な業務は何か、見直しの機会にしましょう。無駄な作業の削減で、少ない人数でも回る体制が作れます。
  • シニア人材や主婦層の活用: 短時間勤務や柔軟な勤務形態を提供することで、新たな人材プールにアクセスできます。

課題2:育児休業中の人事評価

育児休業を取得すると評価が下がる、という懸念から、特に男性社員が取得を躊躇するケースがあります。

解決策:

  • 評価制度の見直し: 育児休業取得者に不利にならない評価システムを構築します。例えば、休業前の実績を考慮したり、復帰後の頑張りを重視するなどの工夫が考えられます。
  • キャリアパスの明確化: 育休後のキャリアプランを明示することで、従業員の不安を軽減できます。
  • ロールモデルの創出: 経営層や管理職が率先して育休を取得し、その経験を共有することで、組織全体の意識改革につながります。

課題3:介護と育児の同時進行

昨今の中小企業では、従業員自身も介護に直面するケースが増えています。育児と介護の両立支援が求められる時代です。

解決策:

  • 柔軟な勤務体系の導入: 時差出勤、短時間勤務、在宅勤務など、多様な働き方を用意することで、個々の事情に対応できます。
  • 「介護休暇」と「育児休業」の併用促進: 法定の制度を最大限活用できるよう、従業員に情報提供と取得促進を行います。
  • 社内サポート体制の構築: 同じような経験をした先輩社員をメンターとして配置するなど、精神的なサポート体制も重要です。

課題4:社内の理解促進

「なぜ彼/彼女だけが特別扱いされるのか」という不満の声が上がることもあります。

解決策:

  • 全社的な研修の実施: 両立支援の重要性や、それが会社全体にもたらすメリットについて、定期的に研修を行います。
  • 公平性の担保: 育児中の従業員だけでなく、全ての従業員にとって働きやすい環境を整備することが重要です。例えば、趣味や自己啓発の時間を確保するための施策なども検討しましょう。
  • 成功事例の共有: 両立支援によって生産性が上がった、新しいアイデアが生まれたなどの具体例を社内で共有します。

6. 福祉事業所特有の課題と対策

介護・福祉業界は、他の業種以上に人材確保が困難な状況にあります。そのため、両立支援策の導入は、単なる法令遵守以上の意味を持ちます。

業界特有の課題:

  1. 24時間365日のサービス提供: シフト制の中で、いかに公平に育児休業を取得させるか。
  2. 感情労働によるストレス: 介護・福祉の現場特有のストレスと、家庭での育児の両立。
  3. 慢性的な人手不足: そもそも代替要員の確保が難しい。

対策案:

  1. 長期的な視点でのシフト設計:
    • 年間を通じての育休取得計画を立て、シフトに組み込む。
    • AIを活用した効率的なシフト管理システムの導入。
  2. メンタルヘルスケアの強化:
    • 定期的なカウンセリングの実施。
    • ストレス解消法や時間管理術の研修提供。
  3. 多様な働き方の導入:
    • 短時間正社員制度の導入。
    • 在宅でできる業務(記録作成など)の洗い出しと、テレワークの部分的導入。
  4. 地域ネットワークの活用:
    • 近隣の福祉事業所と連携し、一時的な人材融通の仕組みづくり。
    • 退職したOB・OGを登録制のスポット勤務者として活用。

終わりに:変化を恐れず、一歩ずつ前へ

ここまで、次世代育成支援対策推進法の改正に関連する様々な課題と解決策を見てきました。一見すると「大変だ」と思われるかもしれません。しかし、これらの取り組みは、決して「法令遵守のため」だけのものではありません。

むしろ、これを「選ばれる企業になるチャンス」と捉えてみてはいかがでしょうか。

働き方改革や両立支援に積極的な企業は、以下のようなメリットを享受できます:

  1. 優秀な人材の確保・定着: 働きやすい環境は、良い人材を引き付け、長く活躍してもらうための武器になります。
  2. 生産性の向上: 従業員が安心して働ける環境は、モチベーションと生産性の向上につながります。
  3. 企業イメージの向上: 「従業員を大切にする会社」という評判は、顧客や取引先からの信頼にもつながります。
  4. イノベーションの促進: 多様な働き方を認めることで、新しい視点や柔軟な発想が生まれやすくなります。

確かに、一朝一夕には実現できないかもしれません。しかし、小さな一歩から始めることはできます。その一歩の積み重ねが、やがて大きな変化をもたらすのです。
当事務所は、顧問先企業様のその一歩を全力でサポートいたします。法改正への対応はもちろん、人事制度の見直しや従業員満足度の向上など、幅広くご相談に応じております。

「どこから手をつければいいのか分からない」「うちの会社の規模では難しいのでは」など、どんな些細な悩みでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。皆様の事業所に最適なソリューションを、一緒に考え、実現していきましょう。より良い職場環境づくりが、皆様の事業の発展につながることを確信しています。

【参考資料】資料3-1 次世代育成支援対策推進法の改正を踏まえた主な省令事項
【参考資料】資料3-2 次世代育成支援対策推進法の改正を踏まえた主な指針事項

介護施設・中小企業向け: 短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集解説 | 令和6年10月施行 (4)

令和6年9月5日、健康保険組合宛に厚生労働省保険局保険課から事務連絡として「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集」が発表されました。

この事務連絡を踏まえて、ここまで、短時間労働者への健康保険・厚生年金保険の適用拡大に関する重要なポイントを解説してきました。
今回は最終回として、複数の事業所で働く労働者の取り扱いや、短時間正社員に対する対応について触れていきます。これらのケースは、特に多様な働き方が増える現代において、事業主にとって見過ごせない問題です。さらに、今回のコラムの最後には、社労士事務所としての見解を述べ、経営者や人事担当者が今後どのように対応すべきかを考察します。

 

Q49. 短時間正社員について、今回の適用拡大によって取扱いに変更はあるか。
A49.
短時間正社員については、今回の適用拡大によって取扱いに大きな変更はありません。

短時間正社員は、従来の基準に従って、社会保険の適用が行われます。これまでと同様、短時間労働者であっても、勤務時間や賃金の基準を満たせば、健康保険や厚生年金保険の適用対象となります。

例えば、介護施設で働く短時間正社員が週30時間働いており、賃金が月額8.8万円以上であれば、従来と変わらず社会保険の適用が続くことになります。


Q50. 同時に2ヶ所以上の事業所で勤務をしているが、複数の事業所で被保険者資格の取得要件を満たした場合、どのような手続きが必要になるか。
A50.
同時に複数の事業所で勤務し、それぞれの事業所で被保険者資格の取得要件を満たした場合、すべての事業所において被保険者資格を取得する必要があります。複数の事業所での勤務時間や賃金を合算して標準報酬月額が決定されます。

たとえば、介護施設Aでパートタイム、介護施設Bでも同様にパートタイムで働く従業員がいる場合、両方の事業所で被保険者資格を取得します。各事業所から被保険者資格取得届を提出し、それぞれの勤務時間や賃金を合算して社会保険料が決定されます。複数の事業所で働く労働者が増えている現在、このような手続きがしっかりと行われることが、従業員の福利厚生を守るために非常に重要です。

事務所としての見解

これまでのコラムで、短時間労働者への健康保険・厚生年金保険の適用拡大に関する重要なポイントを解説してきました。この制度改正は、社会保険制度の一貫性と公平性を追求するものであり、短時間労働者も長時間労働者と同じように社会保険の適用を受けられるようになることは、非常に意義深い変革です。しかし、これは単なる法律や規制の変更にとどまらず、企業や介護施設の経営者にとっては、今後の経営判断や人事戦略に直結する問題でもあります。

短時間労働者の増加を見越した人事戦略

特に介護施設や中小企業では、短時間労働者の存在が事業運営の重要な要素となっています。今回の適用拡大により、これまで社会保険の対象外であった労働者が保険に加入することになり、事業主側の負担も増える可能性があります。これは一見、コストの増加として捉えられがちですが、逆に言えば、従業員にとっては社会保険に加入することができることで安心感が増し、結果的に職場定着率の向上や、優秀な人材の確保につながる可能性があります。

このように、短期的な視点で見るとコスト増と感じるかもしれませんが、長期的に見れば、従業員満足度の向上や人材の安定確保につながるため、経営者としては、この制度改正をポジティブに捉えるべきです。従業員の福利厚生を充実させることは、企業の信頼度を高め、優秀な人材を引きつける要素となるのです。

制度改正をチャンスに変える

一方で、このような制度改正がもたらす変化を「負担」として捉えるのではなく、経営をより効率的に進める「チャンス」として活かす視点も必要です。たとえば、今回の適用拡大をきっかけに、労働時間の管理を見直し、短時間労働者でも長期的に安定したキャリアを築けるような制度設計を進めることができます。

従業員一人ひとりの働き方に寄り添い、柔軟な就業制度や労務管理を構築することで、事業全体の効率性も向上します。これにより、業務が効率化されるだけでなく、従業員の意欲や働きがいが向上するため、事業成長の原動力となるでしょう。特に、介護施設や中小企業では、限られたリソースの中で、いかに効率的に経営を進めるかが成功のカギとなります。

新たな労務管理の形を模索する

また、複数事業所での労働や短時間正社員の管理がさらに複雑化する中で、事業主は労務管理の効率化に向けた新しい取り組みが求められます。デジタルツールの活用や、外部の専門家との連携によって、複雑な労務管理もシンプルに処理することが可能です。ここで、私たちのような社会保険労務士事務所のサポートが必要になる場面が増えてくるでしょう。

これまでの慣習や固定観念にとらわれず、新しい労務管理の形を模索することで、経営に新たな視点を取り入れ、さらなる成長への道を切り開くことができます。今回の改正は、単に制度に対応するためのものではなく、経営者にとっても未来を見据えた戦略を構築するための一歩であり、ここに大きなチャンスがあるのです。

まとめ

今回のシリーズを通して、短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大が、介護施設や中小企業にとってどのような影響を与えるのかを見てきました。従業員にとっての福利厚生の充実はもちろん、経営者にとっても、労働力を安定的に確保するための重要な要素であることが理解できたかと思います。

今後、制度改正に伴う新しい労務管理の形を模索し、事業運営をさらに効率化させるために、当社労士事務所が全力でサポートいたします。制度対応を負担ではなく、次の成長へのステップと捉えて、一緒に未来を切り開いていきましょう。

【参考資料】短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その3)(令和6年9月5日事務連絡)

介護施設・中小企業向け| 短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集解説-令和6年10月施行 (3)

令和6年9月5日、健康保険組合宛に厚生労働省保険局保険課から事務連絡として「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集」が発表されました。

前回は、特定適用事業所の手続きや、労働時間の算出方法について解説しました。今回は、さらに踏み込んで「所定内賃金」や「短時間正社員」、そして「複数事業所で働く労働者」の取り扱いについて詳しく見ていきます。これらのポイントは、特に給与計算や保険の適用を正しく行う上で欠かせない部分です。介護施設や中小企業の経営者にとって、労務管理の実務に直結する重要な内容ですので、ぜひご確認ください。

Q34. 就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間が週20時間未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が週20時間以上となった場合は、どのように取り扱うのか。また、施行日前から当該状態であった場合は、施行日から被保険者資格を取得するのか。
A34.
所定労働時間が週20時間未満であっても、実際の労働時間が恒常的に週20時間以上であれば、被保険者資格を取得します。施行日前からこの状態が続いている場合は、施行日から被保険者資格を取得することとなります。

このケースは非常に現実的です。例えば、介護施設でパートタイム勤務の職員が、忙しい時期に臨時でシフトに入ることが増え、結果として恒常的に週20時間以上働くようになった場合、雇用契約上は「短時間労働者」であっても、実態に基づいて被保険者資格が発生することになります。労働時間を定期的に見直し、適切な対応を取ることが求められます。


Q35. 「学生でないこと」について、学生とはどのような者を指すのか。通信制課程に在学する者は対象となるのか。
A35.
学生とは、主に昼間の課程に在学している者を指します。通信制課程に在学する者は、被保険者資格を取得する対象となります。

介護業界や中小企業で、学生をアルバイトとして雇用することも多いですが、ここで重要なのは、昼間の課程に在学している「学生」であれば、健康保険や厚生年金の適用外になるという点です。しかし、通信制の大学や専門学校に通う学生であれば、社会保険の適用対象になります。事業所としては、雇用時に学生の在学状況を正確に確認し、適切な対応を取る必要があります。


Q36. 学生については、4分の3基準に該当していても、学生という理由のみをもって健康保険・厚生年金保険の被保険者とならないのか。
A36.
学生については、4分の3基準に該当していても、学生という理由のみで健康保険・厚生年金保険の被保険者とはなりません。

たとえ労働時間が長く、賃金が高くても、「学生」であれば社会保険の適用外です。しかし、先ほどの通信制学生は例外となりますので、こちらも確認が重要です。例えば、週に30時間以上働く学生でも、社会保険に加入する必要はないことを理解しておきましょう。


Q37. 短時間労働者の厚生年金保険・健康保険の適用については、所定内賃金が月額8.8万円以上であるほかに、年収が106万円以上であるかないかも勘案するのか。
A37.
短時間労働者の厚生年金保険・健康保険の適用については、年収106万円以上であるかどうかは勘案しません。所定内賃金が月額8.8万円以上かどうかで判断します。

介護施設や中小企業では、年収106万円を超えるかどうかという問題に直面することが多いですが、保険の適用においてはあくまで「月額賃金」が基準です。例えば、月額が8.8万円を超えれば、年収が106万円以下であっても社会保険の対象となります。


Q38. 健康保険の被扶養者として認定されるための要件の一つに、年収が130万円未満であることという収入要件があるが、この要件に変更があるのか。
A38.
健康保険の被扶養者として認定されるための年収要件(130万円未満)に変更はありません。

被扶養者に関しては、年収130万円未満であることが基準となります。この基準には変更がないため、例えば家族がパートタイムで働いている場合、その年収が130万円を超えないようにすることで、引き続き被扶養者として健康保険を利用することが可能です。


Q39. 所定内賃金が月額8.8万円以上かの算定対象となる賃金には、どのようなものが含まれるのか。
A39.
所定内賃金には、基本給や各種手当(通勤手当、住宅手当、役職手当など)が含まれますが、時間外手当や賞与、臨時的に支払われる手当は含まれません。

たとえば、介護施設で働く短時間労働者の場合、基本給に加えて住宅手当や通勤手当が支給されているかもしれません。これらが月額8.8万円を超えるかどうかを基準に、社会保険の適用を判断することになります。臨時の手当や賞与はこの計算には含まれませんので、賃金の内訳をしっかり確認することが重要です。


Q40. 就業規則や雇用契約書等で定められた所定労働時間が週20時間以上で、かつ所定内賃金が月額8.8万円未満である者が、業務の都合等により恒常的に実際の労働時間が増加し、賃金が月額8.8万円以上となった場合は、どのように取り扱うのか。
A40.
所定内賃金が恒常的に月額8.8万円以上となった場合、被保険者資格を取得します。

たとえば、介護施設の職員が業務の増加によりシフトに多く入るようになり、結果的に月額賃金が8.8万円を超える場合には、社会保険の対象となります。臨時的な増加ではなく、恒常的に賃金が8.8万円以上となるかどうかがポイントです。


まとめ

今回のコラムでは、所定内賃金、短時間正社員、学生労働者に対する社会保険の適用に焦点を当てて解説しました。これらの取り扱いは、単純に賃金や労働時間に基づく計算だけではなく、各労働者の働き方や契約条件に応じた柔軟な対応が求められます。介護施設や中小企業においては、短時間労働者が占める割合が大きく、制度の理解と適切な対応が経営の安定に不可欠です。

特に、短時間正社員や学生労働者は、労働条件の変動が発生しやすいことから、事前の計画と日常の労務管理が重要です。例えば、業務の都合で労働時間や賃金が変更された際、迅速に適用範囲を見直し、必要な手続きを行うことがトラブル回避のカギとなります。これを怠ると、事後的に大きな修正が必要となるだけでなく、企業全体の信頼を損なうリスクも伴います。従業員にとっても、正確な社会保険の適用は安心して働ける環境づくりの基盤です。

また、社会保険の適用を進めることで、従業員に対する福利厚生が充実し、結果として職場全体のモチベーション向上や定着率の改善にもつながります。短時間労働者に対しても、他の正社員と同様に社会保険を適用することは、経営者が従業員の将来を見据えた制度設計を行っているという信頼感を醸成する効果も期待できます。

労働者の働き方が多様化する中で、複数の事業所にまたがって働く従業員への対応は、特に経営者にとって頭を悩ませるポイントの一つです。次回では、そうした実務の複雑さを解消するための具体的な対応方法を詳しく解説し、実務管理の負担を軽減するためのヒントをお伝えできればと思っています。

次回も引き続き、今後の事業運営に役立つ実践的な情報を提供してまいりますので、どうぞお見逃しなく。

【参考資料】短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その3)(令和6年9月5日事務連絡)

介護施設・中小企業向け| 短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集解説-令和6年10月施行 (2)

令和6年9月5日、健康保険組合宛に厚生労働省保険局保険課から事務連絡として「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の更なる適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集(その3)」が発表されました。

前回のコラムでは、短時間労働者への健康保険・厚生年金保険の適用拡大について、その背景や基本事項を解説しました。今回は、事業所が「特定適用事業所」に該当するかどうか、そして該当した場合の手続きについて詳しく見ていきます。加えて、所定労働時間の計算方法も解説します。特に介護施設や中小企業の経営者にとっては、この手続きを理解しておくことが、従業員の福利厚生を守りつつ、労務リスクを回避する上で欠かせません。


Q11. 施行日から特定適用事業所に該当する適用事業所は、どのような手続きが必要になってくるか。
A11.
施行日から特定適用事業所に該当する場合、事務センターに特定適用事業所該当届を提出する必要があります。さらに、該当する短時間労働者が新たに社会保険の適用を受ける場合は、被保険者資格取得届も併せて提出する必要があります。

 

 


Q12. 施行日から特定適用事業所に該当する可能性のある適用事業所に対して、あらかじめ機構から何らかのお知らせは送付されてくるか。
A12.
特定適用事業所に該当する可能性がある適用事業所に対しては、機構から「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が送付されます。

従業員数が50人以上で、短時間労働者も多数いる介護施設では、このお知らせを受け取ることで、必要な手続きの準備を整え、事前に対応策を講じることが可能になります。

 


Q13. 「特定適用事業所該当事前のお知らせ」や「特定適用事業所該当通知書」が送付され、5か月目の翌月も被保険者の総数が50人を超えたため特定適用事業所に該当したにもかかわらず、事務センター等へ特定適用事業所該当届を届け出なかった場合はどうなるか。
A13.
「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が送付され、5か月目の翌月も被保険者の総数が50人を超えたため特定適用事業所に該当したにもかかわらず、事務センター等へ特定適用事業所該当届を届け出なかった場合、機構が該当事業所として取り扱います。

事業所が届出を怠ったとしても、機構は自動的に特定適用事業所としての処理を進めます。事業主側からの届出忘れの場合も、確認作業の結果、機構が自動的に該当事業所として扱うため、届出をしなかったことによる大きな不利益を避けることができます。ただし、届出が遅れることで事務処理が煩雑になる可能性があるため、速やかに対応することが望ましいでしょう。


Q14. 使用される被保険者の総数が直近12か月のうち6か月以上50人を超えたことが機構において確認できなかった場合でも、事業主が特定適用事業所に該当すると判断した場合は、特定適用事業所該当届を事務センター等へ届け出ることはできるか。
A14.
使用される被保険者の総数が直近12か月のうち6か月以上50人を超えたことが機構において確認できなかった場合でも、事業主が特定適用事業所に該当すると判断した場合、特定適用事業所該当届を事務センター等へ届け出ることはできます。

機構の確認がまだ行われていない場合、事業主が自主的に該当すると判断したら、該当届を提出することが可能です。特定適用事業所に該当することで、従業員の福利厚生や社会保険の手続きが整えられるため、事業主としては積極的に対応を進めることが大切です。


Q15. 事業所の新規適用や事業所の合併時点で6か月以上50人を超える実績はないが、当該時点以降の厚生年金保険の被保険者の総数が50人を超える場合、特定適用事業所該当届を届け出る必要があるか。
A15.
事業所の新規適用や合併時点で6か月以上50人を超える実績がない場合でも、以後に50人を超えることが見込まれる場合、特定適用事業所該当届を届け出る必要があります。

新たに事業を拡大した介護施設が、今後さらに従業員を増やし、50人以上の労働者を雇用することが見込まれる場合、速やかに特定適用事業所としての届出を行う必要があります。


Q30. 1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合とはどのような場合か。また、そのような場合は1週間の所定労働時間をどのように算出すればよいか。
A30.
1週間の所定労働時間が短期的かつ周期的に変動する場合でも、1年間を通じた平均の所定労働時間が20時間以上であれば、被保険者資格を取得します。

たとえば、繁忙期と閑散期がある介護施設では、従業員の労働時間が月によって大きく異なるかもしれません。しかし、労働時間の変動にかかわらず、年間を通じた平均労働時間が20時間を超えていれば、その従業員は社会保険の対象となります。変動する勤務時間を考慮しつつ、長期的な視点で対応することが重要です。


まとめ

特定適用事業所としての対応や労働時間の計算方法は、介護施設や中小企業にとって非常に重要な要素です。従業員数や労働時間が変動しやすい業態においては、法に基づいた正確な手続きが求められ、少しのミスが大きなリスクとなる可能性があります。特に、短時間労働者を多く抱える事業所では、こうした手続きを確実に行うことが、経営の安定に直結するものとなります。

しかし、これらの手続きは単に「負担」ではありません。労働時間の計算を適切に行い、正確な社会保険の適用を進めることは、従業員にとっての安心感を高め、職場全体の生産性向上にもつながります。これは、単なる事務処理に留まらず、経営の質を向上させるための「投資」として捉えるべき重要な部分です。実務対応を強化することで、従業員の定着率向上や業務の効率化が期待できるでしょう。

次回は、さらに具体的な「所定内賃金の取り扱い」や「学生労働者、短時間正社員」に対する社会保険適用について掘り下げていきます。

【参考資料】短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その3)(令和6年9月5日事務連絡)

 

介護施設・中小企業向け| 短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集解説-令和6年10月施行 (1)

令和6年10月1日、短時間労働者への社会保険適用がさらに拡大します

これまで従業員数が101人以上の企業に限られていた社会保険の適用範囲が、今回の改正により、従業員数51人以上の企業にも拡大されることとなりました。これにより、パートやアルバイトといった短時間労働者にも社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入が求められるため、多くの中小企業や福祉事業所に影響が及ぶことは間違いありません。

例えば、週20時間以上働く短時間労働者は、特定の要件を満たすことで社会保険の被保険者となります。この適用拡大に伴い、企業側は適切な手続きや対応が求められるようになりますが、どのように進めるべきかが具体的にわからないこともあるでしょう。

そこで今回のコラムでは、厚生労働省が発表した令和6年9月5日に厚生労働省が発表した最新のQ&A集に基づき、企業が押さえておくべき基本的なポイントを解説していきます。

【参考資料】短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その3)(令和6年9月5日事務連絡)


Q3. 最初の雇用期間が2か月以内である場合は、当該期間を超えて使用されることが見込まれることとして取り扱われることはないのか。
A3.
たとえ最初の雇用契約が2か月以内であったとしても、場合によってはその雇用期間を超えて使用されることが見込まれるとして、社会保険の適用対象になる可能性があります。

以下の条件に該当する場合は、2か月を超えて雇用が継続されると見なされます。
・雇用契約書や就業規則に「契約の更新がある」ことが明記されている場合。
・同じ事業所で、過去に同様の短期雇用者が契約更新された実績がある場合。

つまり、例えば繁忙期の臨時雇用者であっても、契約が延長されることが予想される場合には、短期労働者でも社会保険に加入することが求められる可能性があります。
例えば、繁忙期に合わせて2か月限定でアルバイトを雇ったとしても、その後契約が延長され、3か月、4か月と続く場合、その労働者は被保険者資格を取得することになります。これにより、企業側は従業員が被保険者に該当するかどうかを常に確認し、契約が更新される際には保険手続きを怠らないようにする必要があります。


Q4. 4分の3基準を満たさない短時間労働者は、4要件のうちいずれか1つの要件を満たせば被保険者資格を取得するのか。
A4.
4分の3基準を満たさない短時間労働者であっても、以下の4つの要件をすべて満たす場合には、健康保険や厚生年金保険の被保険者資格を取得することになります。
1.1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
2.月額賃金が8.8万円以上であること。
3.学生でないこと。
4.特定適用事業所に勤務していること(従業員数50人以上の事業所)。

つまり、介護施設や中小企業においても、パートタイム労働者であってもこの要件をすべて満たす場合には、社会保険の適用を受ける必要があるということです。
特に、賃金要件や労働時間要件を満たしているかどうかを確認するために、雇用契約や勤務記録を定期的にチェックすることが、事業主にとって重要です。短時間労働者の雇用が多い介護施設や福祉事業所では、適切な基準で管理を行う必要があります。


Q6. 被保険者資格を取得する短時間労働者の対象範囲はどうなるのか。
A6.
被保険者資格を取得する短時間労働者の範囲は、主に従業員51人以上の事業所で働く労働者が対象です。従業員数が50人以下の事業所は対象外となります。

令和6年10月以降、従業員数51人以上の企業も社会保険の適用対象となるため、これまで社会保険の手続きに馴染みのなかった事業所にとっても、適切な手続きと管理が必要です。これに伴い、労働者の雇用形態に応じた社会保険の適用範囲を見直し、適時対応することが求められます。


Q7. 使用される被保険者の総数が常時50人を超えるか否かの判定は、適用事業所ごとに行うのか。
A7.
使用される被保険者の総数が常時50人を超えるか否かの判定は企業ごとに行いますが、具体的には以下のいずれかの考え方で判定します。
① 法人事業所の場合は、同一の法人番号を有する全ての適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数が常時50人を超えるか否かによって判定します。
② 個人事業所の場合は、適用事業所ごとに使用される厚生年金保険の被保険者の総数が常時50人を超えるか否かによって判定します。

介護施設や中小企業がこれに該当する場合、適用事業所がどの範囲に及ぶのかをしっかりと把握し、適切な届出を行う必要があります。


Q8. 「被保険者の総数が常時50人を超える」において、被保険者はどのような者を指すのか。適用拡大の対象となる短時間労働者や70歳以上で健康保険のみ加入している被保険者は対象に含めるのか。
A8.
特定適用事業所に該当するか判断する際の被保険者とは、適用事業所に使用される厚生年金保険の被保険者の総数を指します。適用拡大の対象となる短時間労働者や、70歳以上で健康保険のみに加入している者は対象に含めません。

例えば、介護施設でフルタイムの従業員が30人、週20時間以上働く短時間労働者が15人、さらに70歳以上の従業員が10人いる場合、この介護施設が「常時50人以上の被保険者」を満たしているかどうかを判断する際に、厚生年金に加入しているフルタイムの従業員30人のみがカウントされます。短時間労働者や70歳以上で健康保険のみ加入している従業員は、このカウントには含まれないため、結果的にこの事業所はまだ「50人以上」の基準を満たしていないことになります。
この基準を正確に理解し、被保険者の数を確認することが重要です。


Q9. 「被保険者の総数が常時50人を超える」とは、どのような状態を指すのか。どの時点で常時50人を超えると判断することになるのか。
A9.
「被保険者の総数が常時50人を超える」とは、法人事業所では同一の法人番号を有するすべての適用事業所における厚生年金保険の被保険者の総数が、12か月のうち6か月以上50人を超えることが見込まれる場合を指します。個人事業所では、適用事業所ごとに被保険者数が同じ条件を満たす場合を指します。

たとえば、法人である福祉施設Aの従業員が毎月50人を超えることが予想される場合、過去12か月のうち6か月以上50人を超えることが確認された時点で、この施設は特定適用事業所としてカウントされます。この場合、すべての従業員を合計した人数が基準になります。一方、個人事業所である場合には、各事業所ごとに被保険者数がカウントされるため、複数の小規模事業所を持つ個人事業主は、事業所ごとの従業員数を管理する必要があります。

事業主は、被保険者数が「6か月以上50人を超える」時点を見逃さないよう、定期的な確認と報告が重要です。この基準を満たした場合には、適用事業所としての手続きが必要になります。


Q10. 特定適用事業所に該当した適用事業所は、どのような手続きが必要になってくるか。
A10.
特定適用事業所に該当した場合、法人事業所では本店や主要な事業所が代表して、事務センターに特定適用事業所該当届を届け出ます。個人事業所の場合、各事業所ごとに該当届を提出します。また、適用拡大に伴い新たに被保険者資格を取得する短時間労働者がいる場合は、被保険者資格取得届も提出する必要があります。

例えば、法人事業所である介護施設Aが特定適用事業所に該当した場合、施設Aの本店が代表して、法人全体をカバーする形で該当届を事務センターに提出します。一方、個人事業所で複数の小規模施設を持つ場合、それぞれの施設ごとに該当届を提出しなければなりません。

さらに、今回の適用拡大に伴って、従業員が新たに被保険者資格を取得する場合には、その従業員に対する被保険者資格取得届も併せて提出する必要があります。

 

まとめ

このように、短時間労働者や特定適用事業所に関連する社会保険の適用拡大は、介護施設や中小企業の事業運営にとって極めて重要な変化をもたらします。特に、従業員の労働条件や契約形態に対する理解を深め、法に基づいた手続きを確実に行うことが、経営者に求められる義務です。適切な対応を怠ることで、事務処理の負担が増すだけでなく、リスクを抱えることにもなりかねません。従業員一人ひとりの状況を細かく把握し、これをきちんと管理することが、安定した事業運営の基盤を築く上で不可欠です。

とはいえ、この変化は単なる事務手続きの増加にとどまるものではありません。短時間労働者が増え続ける現代において、社会保険適用拡大は、労働者にとっても、経営者にとっても、より公平で持続可能な働き方を実現するための一歩とも言えます。特に介護施設のように、短時間労働者が重要な役割を果たす業界においては、適切な社会保険の適用が、従業員の満足度や職場の安定性にも影響を与えるでしょう。

次回のコラムでは、この社会保険適用拡大に関連する「特定適用事業所」に焦点を当て、実際の手続きや届出の詳細、さらに労働時間の算出方法に至るまで、具体的な実務対応を掘り下げていきます。ここで理解しておくべきポイントは、ただ単にルールを遵守するだけでなく、事業全体の効率性を高め、長期的な成長を支えるための基盤として、この制度をどう活用できるかという視点です。

社会保険の適用拡大を負担として捉えるのではなく、事業の成長を支える「チャンス」として捉えることが、これからの経営者に求められる新しい視点です。次回は、これらの手続きや労働時間の計算に関する実務的なステップを詳しく見ていきます。

 

【参考資料】短時間労働者に対する適用拡大に係る事務の取扱いに関するQ&A集の送付について(その3)(令和6年9月5日事務連絡)

【福祉新聞 24.9.12】医療・福祉業界の雇用動向、改善の兆し – 2023年雇用調査結果から見る今後の展望

2024年9月12日、福祉新聞によると、厚生労働省が2023年8月27日に発表した「2023年雇用動向調査」により、医療・福祉業界の雇用状況に改善の兆しが見られたことが報じられました。具体的には、医療・福祉分野における入職超過率が前年のマイナス0.9%からプラス1.4%に転じ、2.3ポイントの大幅な改善が見られました。

調査によれば、医療・福祉業界の入職者数は前年から12万8,400人増加し、126万6,500人に達しました。一方で、離職者数は5万2,900人減少し、115万7,100人となり、結果として10万9,400人の入職超過が確認されました。前年調査では、離職超過が7万1,900人に達していたため、今回の回復は業界にとって非常にポジティブなニュースです。

このような結果は、政府の政策や介護報酬の見直し、さらには医療・福祉分野における職業の社会的評価の向上が影響している可能性が高いです。しかし、入職者が増加した一方で、依然として離職者が多い現状を踏まえれば、業界全体での取り組みがさらに必要となります。

事例:成功した企業の取り組み

当事務所のクライアント先での具体的な成功事例としてになりますが、ある中規模の介護施設では、キャリアパスの明確化とメンタルヘルスケアの充実を図ったことで、離職率が大幅に改善しました。この施設では、従業員一人ひとりに合ったキャリアプランを提示し、成長の機会を提供することで、仕事へのモチベーションを高めることに成功しています。
また、職場内でのストレスチェックや定期的なカウンセリングを導入し、従業員の心身の健康をサポートする取り組みを進めています。これにより、従業員の定着率が向上し、業務の効率化にも繋がっています。

具体的なアクションプラン

このような成功事例に基づき、医療・福祉業界の経営者や管理者が取り入れるべきアクションプランを以下にご提案いたします。

1.キャリアパスの明確化:従業員にとって明確な目標設定ができるキャリアパスを整備することが、長期的な定着に繋がります。例えば、特定のスキルを取得することで次の昇進が可能になるといった透明性を持たせると、従業員のモチベーションを向上させることができます。

2.業務の効率化:ICTやDX技術を活用して、業務負担を軽減する取り組みを推進しましょう。業務の自動化や、デジタルツールを使ったコミュニケーションの円滑化により、時間の効率化が可能です。これにより、従業員の過重労働を防ぎ、健康維持にも貢献します。

3.柔軟な働き方の導入:特に介護施設や医療機関では、シフト勤務が多いですが、短時間勤務やテレワークを導入することで、従業員がより柔軟に働ける環境を整えることが求められます。

4.福利厚生の強化:給与以外の部分で従業員の生活を支えるために、福利厚生の充実を図りましょう。例えば、健康保険の手厚いプランや、従業員の家族に対するサポート制度を導入することで、従業員の働きやすさが向上します。

事務所としての見解

医療・福祉業界は、入職者数が増加したからといって、安心できる状況ではありません。離職率が依然として高いという現実は、従業員の定着率を高めるための具体的なアクションが不可欠であることを示しています。企業や施設の成功は、従業員の労働環境に大きく左右されるため、今こそ労働環境の整備に本腰を入れるべき時期です。

特に、長時間労働の是正やメンタルヘルスの支援、キャリアアップのための教育研修の充実は、労働者の満足度を大幅に向上させ、離職を防ぐ効果があります。
経営者や管理者の皆様は、この機会を捉えて、自社の労働環境や雇用体制を再確認し、長期的な成長を目指すための計画立案が必要ではないでしょうか。

この調査結果から、医療・福祉業界の雇用動向に一定の改善が見られたことは、業界関係者にとって前向きなニュースと言えるでしょう。しかしながら、この改善を一時的なものに終わらせることなく、持続可能な成長につなげていくためには、いくつかの重要な視点が必要だと考えます。

人材確保・定着策の更なる強化

入職者数の増加は歓迎すべき傾向ですが、依然として離職者数も多い状況が続いています。この状況を改善するためには、単に新規入職者を増やすだけでなく、既存の従業員の定着率を高めることが重要です。具体的には以下のような施策が考えられます。

  • キャリアパスの明確化と支援体制の構築
  • 働き方改革の推進(残業時間の削減、有給休暇取得の促進など)
  • メンタルヘルスケアの充実
  • 定期的な満足度調査の実施と改善策の実行

業務効率化と労働環境の改善

人手不足が慢性化している医療・福祉業界において、業務の効率化は避けて通れない課題です。ICTの活用やAI技術の導入など、最新のテクノロジーを積極的に取り入れることで、従業員の負担軽減と業務効率の向上を図ることが可能です。同時に、これらの新技術に対応できる人材の育成も重要となります。

多様な働き方の導入

ワーク・ライフ・バランスの重要性が高まる中、医療・福祉業界においても柔軟な働き方の導入が求められています。具体的には以下のような取り組みが考えられます。

  • 短時間正社員制度の導入
  • テレワークの部分的導入(事務作業や会議など)
  • ジョブシェアリングの推進
  • 副業・兼業の許可(関連する資格取得のサポートなど)

処遇改善の継続的な実施

入職者を増やし、離職者を減らすためには、処遇改善が欠かせません。給与水準の向上はもちろんのこと、福利厚生の充実や報奨制度の導入など、従業員のモチベーション向上につながる施策を積極的に検討する必要があります。

産学連携の強化

将来的な人材確保を見据え、教育機関との連携を強化することが重要です。インターンシップの受け入れや、学生向けの業界説明会の開催など、早い段階から医療・福祉業界の魅力を伝える取り組みが求められます。

地域社会との連携

医療・福祉業界は地域社会と密接に関わる業種です。地域住民との交流イベントの開催や、地域の学校での出前授業など、地域に根ざした活動を通じて業界のイメージアップを図ることも、長期的な人材確保につながる重要な施策と言えるでしょう。

経営者・管理者の意識改革

最後に、最も重要なのが、経営者・管理者の意識改革です。従来の「人材確保」から「人財育成」へと視点をシフトし、従業員一人ひとりを貴重な資産として捉える経営姿勢が求められます。そのためには、経営者・管理者自身が労務管理や人材育成に関する最新の知識やスキルを習得し続ける必要があります。


今回の調査結果は、医療・福祉業界の雇用動向に一筋の光明を見出すものでした。しかし、この改善傾向を確固たるものとし、さらなる発展につなげていくためには、業界全体での継続的な取り組みが不可欠です。私たち社会保険労務士は、これらの課題に対して専門的な知見を提供し、皆様の事業の発展と、より良い労働環境の構築をサポートしてまいります。

人材確保・定着に関する課題や、労務管理全般についてのご相談は、お気軽に当事務所までお問い合わせください。

【参考資料】24.9.12 福祉新聞 医療・福祉の入職者超過 23年雇用調査、前年より改善しプラスに(厚労省)

内閣官房が発表したジョブ型人事指針とは?中小企業・介護福祉業界での導入メリットと課題

2024年8月28日、内閣官房、経済産業省、厚生労働省の三省が連名で「ジョブ型人事指針」を公表しました。この文書は、これまでの日本型雇用慣行の見直しを迫るものであり、職務に基づいた評価・報酬の透明性を高めるための具体的なガイドラインとして提示されています。日本の労働市場は長らく年功序列や終身雇用、新卒一括採用という慣習に支えられてきました。しかし、急速な技術革新やグローバル化の進展に伴い、こうした慣習だけでは企業が持続的な成長を維持することが困難になってきています。

そのような背景の中で、この指針が公表されたことには極めて大きな意義があります。日本の労働市場が世界の変化に対応し、新しい資本主義の実現に向けて、どのように柔軟な対応を取るべきかを国家レベルで明示したものです。三省連名でこの指針を発表したことは、国がこの変革に対して一丸となって取り組んでいることを示しており、企業にもその対応を求めるメッセージが込められています。

ジョブ型人事とは

「ジョブ型雇用」という言葉が一般的になったのは、比較的最近のことだと思います。元々この用語は、十数年前に労働政策研究・研修機構の濱口桂一郎先生が欧米の雇用制度を説明するために使用し始めたものだと記憶しています。私自身も当時、濱口桂一郎先生の著書を拝読し、その中で初めて「ジョブ型雇用」という言葉に出会いました。その際、新たな視点が広がり、非常に印象に残ったこと、自分の心に深く刻まれたことを今でも鮮明に覚えています。

しかし、日本企業が人事制度改革の一環として「ジョブ型雇用」を導入する際には、必ずしも濱口先生の定義通りではなく、日本独自の解釈や運用がなされる場合が多いことも事実です。

2020年には、経団連が「2020年版経営労働政策特別委員会報告」で「ジョブ型雇用」の導入を提言し、日本の国際競争力を強化する手段として注目が集まりました。特にテレワークの普及などを背景に、「ジョブ型雇用」という言葉がより一般的になりつつあります。

ジョブ型雇用は、企業が従業員を雇用する際に、具体的な「職務」(ジョブ)に基づいて役割や責任を定義し、その職務に応じた評価と報酬を設定する雇用形態です。これにより、職務内容が明確になるだけでなく、社員のキャリア自律やスキルアップが促進され、企業の競争力強化にもつながります。
ただし、日本企業が導入しているジョブ型雇用は、欧米のものとは異なり、日本独自の文化や経営方針に合わせた運用がなされていることに注意が必要です。

そうした上で、ここでの「ジョブ型人事」とは、社員一人ひとりが特定の職務(ジョブ)に対して必要なスキルや経験を持ち、その職務に応じて処遇や評価が決定される人事制度をいいます。従来の「年功序列型」や「新卒一括採用」の慣行とは異なり、ジョブ型は職務内容や成果に基づいた公平な評価と報酬が特徴です。この仕組みは、特にグローバル競争が激化する中で、日本企業が国際的な競争力を高めるための重要な改革として期待されています。

ジョブ型人事指針の目的

今回公表された「ジョブ型人事指針」は、令和5年4月に設置された「三位一体労働市場改革分科会」が取りまとめたものです。20社の先進企業から情報提供を受け、それらの実践的な事例を基に構成されています。指針の大きな目的は、各企業が自社に合った方法でジョブ型人事を導入するためのガイドラインを示すことにあります。具体的には以下の要素が含まれています。

制度の導入目的

各企業がジョブ型人事を導入する際、その目的や経営戦略上の位置付けが明確にされています。たとえば、DX(デジタルトランスフォーメーション)を推進するためや、グローバル競争力を強化するためなど、企業のビジョンに基づいた目的が設定されています。

制度の骨格
ジョブ型人事制度の導入範囲、等級制度、報酬制度、評価制度が企業ごとに異なる形で設計されています。報酬は職務責任やスキルに応じて決定され、評価は成果と行動に基づいて行われます。

雇用管理制度
採用や人事異動、キャリア自律支援、等級変更などの雇用管理の具体的なプロセスが示されています。特に注目すべきは、社員が自律的にキャリアを選択できるような仕組みが整備されている点です。ポスティング制度(社内公募制度)などを活用し、社員が自分の意志で新たなポジションに挑戦できる環境が提供されています。

人事部と各部署の権限分掌
人事部門が制度の管理を行う一方、各事業部門は独自に人材配置や採用計画を立案できる仕組みが導入されています。これにより、事業部門が自らのビジネスニーズに応じた人材配置を迅速に行えるようになり、組織の機動力が向上します。

労使コミュニケーション
ジョブ型人事制度の導入には、労働組合との協議が重要な役割を果たします。社員の理解と納得を得るためのプロセスが慎重に進められており、社員が安心して新しい制度に移行できるよう配慮されています。

ジョブ型人事の介護・福祉業界導入の影響

ジョブ型人事は、特に介護福祉事業所においても注目すべき制度かもしれません。これまでの業界では、年功序列や経験年数に基づく賃金体系が一般的でしたが、ジョブ型人事の導入により、現場でのスキルや専門知識がより重視されるようになると考えられます。

1.専門性の強化
介護福祉事業においても、各職種ごとのスキルや役割が明確になり、職員一人ひとりがどのようなスキルを持ち、どのように成長していくべきかが見える化されます。これにより、介護職員が自分のキャリアを意識しながらスキルアップに取り組む動機が高まります。

2.報酬体系の見直し
職務に基づいた報酬制度が導入されることで、介護福祉事業所における賃金の透明性が向上します。職務の難易度や責任に応じて報酬が設定されるため、職員のモチベーション向上にもつながるでしょう。

3.キャリア自律支援
介護福祉事業所でも、ジョブ型人事を導入することで、職員が自律的にキャリアを選択できる仕組みが整います。例えば、ケアマネージャーや施設管理職への昇進を希望する職員が、自分のスキルを磨きながらキャリアを積んでいける環境が提供されるようになります。

ジョブ型人事の中小企業導入の影響

ジョブ型人事は中小企業にとっても大きな可能性を秘めています。中小企業は大企業に比べて限られたリソースで業務を行う必要がありますが、ジョブ型人事の導入により、以下のメリットが期待されます。

1.人材の最適配置
職務ごとのスキルや責任が明確になるため、適材適所での人材配置が可能となります。これにより、業務効率が向上し、限られた人材を最大限に活用することができます。

2.人材育成の効率化
ジョブ型人事に基づいて、社員がどのようなスキルを持ち、どの分野で成長すべきかが明確になるため、人材育成が効果的に行えるようになります。また、リスキリングやアップスキリングの機会を提供することで、社員のスキルアップを支援することができます。

3.競争力の強化
中小企業にとって、限られたリソースの中での競争力強化は重要です。ジョブ型人事を導入することで、社員が自ら成長し、企業の発展に貢献する風土が醸成され、結果的に競争力が向上します。

ジョブ型人事の変革の意義

ジョブ型人事制度は、単なる労務管理の手法を超えて、日本の働き方そのものを根本的に変えるものです。これまでは年齢や在籍年数による処遇が中心でしたが、ジョブ型人事では個々のスキルや成果、職務内容に応じて評価が行われます。この変革は、次のようなメリットをもたらします。

個々のキャリア自律を支援する

職務内容が明確化され、職務ごとのスキル要件が定められることで、社員は自分が求められる役割を理解し、その上でどのようにスキルアップを図れば良いのかを自ら考えるようになります。これにより、社員が自身のキャリア形成を自律的に行い、企業の枠を超えて成長できるような環境が整備されます。

競争力の強化

グローバル市場での競争力を強化するためには、適材適所の配置が欠かせません。ジョブ型人事は、社員の能力を最大限に引き出し、特定の職務において最適な人材を配置することが可能です。これにより、企業は外部市場においても通用する人材を育成し、持続的な成長を実現できるようになります。

透明性のある評価と報酬制度

職務ごとに明確な基準が設けられることで、評価や報酬において透明性が確保されます。これにより、社員は自分の成果や能力がどのように評価されているのかを理解しやすくなり、モチベーションの向上にもつながります。

内閣官房、経産省、厚労省が連名で発表した意義

今回、三省が連名でこの指針を発表したことには、日本全体の経済・労働市場に対する強いメッセージが込められています。内閣官房が加わっていることから、これは単なる労働改革や産業政策の一部ではなく、国家レベルで日本の働き方改革を推進するという意思表示と捉えることができます。

経済産業省の関与は、企業がこの指針に基づいて、労働生産性の向上とグローバル競争力を強化するために具体的な対応策を講じることが求められていることを示しています。特に、製造業やサービス業といった日本経済の基盤を担う産業において、この指針が導入されることで、より効果的な人材マネジメントが可能になるでしょう。

また、厚生労働省が連名で加わったことは、単に経済成長だけでなく、労働者の福祉や働き方の向上も重要な要素として考慮されていることを意味します。ジョブ型人事の導入は、労働者が自分のスキルを高め、持続的に成長できる環境を整備し、同時に企業においても持続可能な発展が促進されるという相乗効果を生み出すものとされています。

この文書の公表は、単なる制度改革を超えて、日本社会全体がどのように労働環境を改善し、経済成長を図っていくのかという国家のビジョンを反映しています。

ジョブ型人事のメリット

職務に基づく明確な評価と報酬

ジョブ型人事では、各職務の責任や役割が明確に定義されているため、社員は自分が何を達成すべきかがはっきり理解できます。また、成果に基づいた評価と報酬の設定がなされるため、社員は自分のパフォーマンスがどのように報われるのかを明確に知ることができます。これにより、働くモチベーションが向上し、個々の成長が促される環境が整います。

キャリア自律の促進

ジョブ型人事制度では、社員が自らのキャリアを主体的に選択し、スキルアップに向けて努力できる環境が提供されます。企業が職務ごとのスキル要件や役割を明確にすることで、社員は自分がどのようにキャリアを積んでいけば良いのかを理解しやすくなり、自律的な成長が促されます。これにより、企業全体の成長も促進されることが期待できます。

人材の最適配置

ジョブ型人事では、社員のスキルや専門知識に基づいて職務が割り当てられるため、適材適所の配置が可能になります。これにより、企業は限られた人材を最大限に活用し、業務の効率化が図れます。特に中小企業や介護福祉事業所にとっては、こうした効率的な人材配置が競争力を高める大きな要因となります。

導入企業の事例

今回のジョブ型人事指針で紹介された20社の事例には、以下の企業が含まれています。

  1. 富士通株式会社
  2. 株式会社日立製作所
  3. アフラック生命保険株式会社
  4. パナソニック コネクト株式会社
  5. 株式会社レゾナック・ホールディングス
  6. ソニーグループ株式会社
  7. オムロン株式会社
  8. 中外製薬株式会社
  9. KDDI株式会社
  10. 三菱マテリアル株式会社
  11. 株式会社資生堂
  12. 株式会社リコー
  13. テルモ株式会社
  14. オリンパス株式会社
  15. ENEOS株式会社
  16. ライオン株式会社
  17. 三井化学株式会社
  18. 三菱UFJ信託銀行株式会社
  19. 東洋合成工業株式会社
  20. 株式会社メルカリ

これらの企業は、ジョブ型人事制度を導入し、職務に基づいた評価と報酬体系を確立しています。それにより、社員のスキルアップを促進し、グローバル市場での競争力を強化しています。

ジョブ型人事のデメリット

一方で、ジョブ型人事にはデメリットも存在します。すべての企業にこの制度が適しているわけではなく、導入には慎重な検討が必要です。

長期的なキャリア形成に対する不安

ジョブ型人事では、特定の職務に特化したスキルが重視されるため、社員が一つの職務に固定されがちになります。これにより、他の職務に移行する際に不利になることがあり、長期的なキャリア形成に対する不安が生じる可能性があります。

コミュニケーションの分断

ジョブ型人事では、個々の職務に特化した評価が行われるため、部門間やチーム内でのコミュニケーションが希薄になる恐れがあります。特に、介護施設や中小企業では、現場での連携が重要であり、ジョブ型の導入がかえってコミュニケーションを阻害するリスクもあります。

導入コストと時間

ジョブ型人事制度を導入するには、職務記述書の作成や報酬制度の再設計、社員への説明など、大きなコストと時間がかかります。特に中小企業にとっては、これらのリソースを確保することが課題となり得ます。

 

当事務所の見解:企業文化に合わせた人事制度の重要性

当社労士事務所は、今回のジョブ型人事指針の発表を受け、「ジョブ型人事制度」にすぐに飛びつくのではなく、慎重にその適用を検討することが重要だと考えています。ジョブ型雇用には多くのメリットがある一方で、すべての企業に必ずしも最適であるとは限りません。それぞれの企業の歴史や文化、風土、経営理念を十分に考慮し、その上で適切な人事制度を構築することが何よりも大切です。企業ごとの特性や強みを活かしながら、最適な形での導入を目指すことが成功への鍵となるでしょう。

特に、介護福祉事業所や中小企業では、現場でのチームワークや協力が求められる場面が多く、ジョブ型雇用だけでは対応できない場合もあります。そのため、当事務所では、ジョブ型人事にこだわるのではなく、他の人事制度や、ジョブ型を組み合わせたハイブリッド型の制度設計を推奨しています。重視すべきは運用に乗って持続的な成長ができる制度。
企業が持つ独自の強みを活かしつつ、社員が自律的に成長できる環境を整え、組織の持続的な成長を支援していきます。

ジョブ型人事指針の公表は、日本企業がグローバル市場での競争力を高めるための一つの道標であり、変革のきっかけとなるでしょう。しかし、導入には企業ごとの特性を十分に考慮し、柔軟に対応することが成功のカギとなります。当事務所は、企業のニーズに合わせた最適な人事制度の導入をサポートし、企業の成長に寄与してまいります。

ジョブ型人事制度に関心を持たれた方や、人事制度の導入・見直しでお困りの方、ぜひ当事務所にご相談ください。当事務所では、中小企業や介護福祉事業所に最適な人事制度の導入支援を行っております。企業のニーズに合わせた柔軟な制度設計を通じて、貴社の成長と発展を全力でサポートいたします。現在、45分間の無料オンライン相談も承っております。ジョブ型雇用をはじめ、人事制度導入にご興味のある事業所様は、この機会に是非ともこのサービスをご利用ください。

【参考リンク】内閣官房 新しい資本主義実現本部/新しい資本主義実現会議
【参考資料】ジョブ型人事指針

 

給与計算は誰でもできる?その誤解がもたらすリスクとプロが教える正しい方法

「ちょっとした知識があれば誰でもできるよ」。社労士としての道を歩み始めたばかりの頃、ある先輩にこう言われたことを今でも鮮明に覚えています。当時は右も左も分からないまま、先輩の言葉を信じ、給与計算をただの事務作業の一つとして捉えていました。

それから年月が経ち、経験を積み重ねる中で、給与計算の業務がいかに複雑で繊細なものであるかを痛感する機会が増えました。しかし、驚くことに、最近でも「給与計算なんて簡単だろう?」と、あの頃と同じような言葉を耳にすることがあります。こうした言葉を口にする方々は、往々にして給与計算の本質を理解していないことが多いようです。痛い目にあって初めて、その重要性に気づかれるのかもしれませんが、それまでの道のりは決して容易ではないでしょう。

給与計算は単なる数字の計算ではありません。その裏には、法律の細かな規定や従業員ごとの個別事情が複雑に絡み合っています。それを的確に反映し、ミスなく処理することが求められるこの業務は、表面的にはシンプルに見えるかもしれませんが、その実態は非常に高度な専門知識と経験が必要です。

給与計算が「簡単に見える」理由

給与計算が簡単に見えるのは、その作業自体が定型的であり、ルーチンワークとして扱われることが多いからです。特に、給与計算ソフトが普及し、データを入力するだけで自動的に結果が出る時代では、「誰でもできる」と思われるのも無理はありません。

また、基本的な計算方法やルールを学べば、数ヶ月のトレーニングで担当者としての役割を果たせることも、「簡単に見える」一因です。しかし、それはあくまで「基本的な」部分に限った話です。

給与計算の本当の難しさ

給与計算の真の難しさは、その背景にある法律や規則の理解にあります。例えば、労働基準法に基づく残業代の計算は、単純に「時間×割増率」で済むものではありません。従業員の勤務形態や、各企業の就業規則によって異なる要素を全て考慮に入れた上で、適切に計算する必要があります。

さらに、社会保険料の計算や控除額の算出には、所得税法や健康保険法といった多様な法律の知識が必要です。そしてこれらの法律は、毎年改正されます。最新の法改正情報を常に把握し、給与計算に反映させることは、経験の浅い担当者には容易ではありません。

事例紹介:複雑な給与計算の実際

例えば、ある介護福祉事業所では、夜勤を含むシフト勤務の従業員が多く在籍しています。この事業所では、夜勤手当や休日勤務手当の計算が必要不可欠です。しかし、その計算は一律ではなく、勤務時間やシフトの組み合わせによって大きく異なります。特に、労働時間が法定労働時間を超えた場合の割増賃金計算は、各従業員の勤務実態に合わせた精緻な計算が求められます。

また、育児休業中の従業員の給与計算も一筋縄ではいきません。育児休業給付金の受給状況や、休業期間中の社会保険料免除の適用有無など、個別の事情を的確に把握し、法に則った処理を行う必要があります。これらの細かい調整を怠れば、後々の修正が大きな手間となり、企業にとっても大きな負担となります。

ミスがもたらす影響の大きさ

給与計算のミスがもたらす影響は、計り知れません。例えば、従業員に対して過剰に支払った場合、その返金手続きは非常にデリケートな問題になります。特に、少額の誤りであっても、従業員にとっては信頼を損なう大きな要因となり得ます。

逆に、支払額が不足していた場合、従業員からのクレームや不信感だけでなく、労働基準監督署からの是正勧告を受ける可能性もあります。これは企業にとって、法的リスクや信頼の低下に直結する重大な問題です。

特に、介護福祉事業所や障害福祉事業所においては、給与計算のミスがサービス提供に直接影響を与える可能性があります。例えば、シフト制で働く従業員の残業代計算が誤っていた場合、士気低下につながり、サービスの質が低下する恐れがあります。給与計算の正確性は、事業所全体の運営に直結する要素であると言えるでしょう。

社労士事務所としての見解

「ちょっとした知識があれば誰でもできる」—給与計算に対してこのような認識を持つことは、非常に危険です。給与計算は、法律や規則の正確な理解に基づいた高度な業務であり、実務経験と専門知識が必要です。軽々しく扱うべきではなく、専門家の手に委ねるべき業務です。

また、給与計算は単なる事務作業ではなく、企業の健全な運営に不可欠な要素です。給与計算が適切に行われていないと、従業員のモチベーションに悪影響を与えるだけでなく、法的リスクが増大し、企業の存続に関わる問題にも発展しかねません。特に、中小企業や介護福祉事業所では、一度のミスが大きな経済的損失や信頼の低下を招く可能性があるため、なおさら注意が必要です。

私たちの社労士事務所では、これまで培ってきた豊富な経験と知識を活かし、正確で信頼性の高い給与計算アウトソーシングサービスを提供しています。中小企業や介護福祉事業所、障害福祉事業所の皆様が、日々の業務に専念できるよう、給与計算という重要な業務をプロフェッショナルとしてしっかりとサポートいたします。
また、給与計算で現在お困りの事業所様に向けても、45分間の無料オンラインサービスも実施しております。短い時間ではありますが、この機会をぜひご活用いただき、課題解決の一助になれば幸いです。

給与計算は企業の基盤を支える重要な業務であり、それを適切に行うことで、従業員との信頼関係が築かれ、企業全体の発展につながります。当事務所は、単なる計算業務の代行にとどまらず、貴社がより健全で持続可能な運営を実現するためのパートナーとして、共に歩んでいきたいと考えています。

政府の第6回『女性活躍推進プロジェクト』が示す賃金格差の課題と解決策|介護福祉と中小企業の視点から

2024年9月2日、政府の「女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム」による第6回会議が開催されました。この会議では、男女間の賃金格差や地方における女性の就業状況に関する課題が議論され、政府が今後取り組むべき方向性が示されました。この記事では、会議で取り上げられた重要なトピックを振り返りながら、介護福祉業界や中小企業における女性活躍推進の課題と解決策について考察します。

都道府県別の賃金格差とその影響

厚生労働省が発表したデータによると、都道府県ごとの男女間賃金格差は依然として大きな問題となっています。栃木県や茨城県などでは、女性の給与が男性の70%程度にとどまっており、全国平均の73%を下回る地域が多く見られます。一方で、高知県や岩手県では、男女間の賃金格差が比較的小さいことが明らかになっており、地域ごとの格差が際立っています​。

厚生労働省 雇用環境/均等局 都道県別の女性の就業状況等について

こうした賃金格差は、単に「男女の給与差」という問題にとどまらず、地方から若年女性が都市部に流出する要因の一つとして指摘されています。特に介護業界では、女性が主に担う現場業務が多いため、この流出が人手不足に拍車をかける可能性が高まっています。地方においても、賃金格差を是正し、女性がキャリアを積みやすい環境を整えることが急務です。

アクションプランの策定とその重要性

今回の会議では、金融・保険などの5つの産業における男女間賃金格差是正に向けたアクションプランの作成が議論されました。特に女性労働者の多いこれらの産業では、賃金格差が業界全体の成長を阻害する要因となっており、賃金の適正化やキャリアアップ支援が求められています。

介護福祉業界でも、同様の課題が存在します。女性職員が多くを占めるこの業界では、賃金面だけでなく、管理職への登用機会や働きやすい環境の整備が必要不可欠です。特に地方においては、女性がリーダーシップを発揮できる環境を整えることで、地域社会全体の活性化にもつながる可能性があります。

地域ごとの取り組みが鍵

地域ごとの課題に合わせた対策が、今後の日本社会の持続的な発展には欠かせません。賃金格差が大きい地域では、まずは女性が管理職に昇進できるような制度の整備や、非正規労働者から正規雇用への移行支援が急務となっています。また、柔軟な働き方の導入や育児休業制度の充実も、女性がキャリアを諦めずに働き続けられる環境を作る重要なポイントです。

一方で、賃金格差が比較的小さい地域でも、油断は禁物です。こうした地域では、引き続き女性が活躍できる環境の維持と、さらに一歩進んだ支援策が求められます。例えば、介護現場では、女性がリーダーシップを発揮しやすいような研修や育成プログラムの充実が必要でしょう。

事務所としての見解

当事務所は、女性の職業生活における活躍推進が、日本全体の経済や社会にとって非常に重要であると認識しています。特に、介護福祉事業所や中小企業では、女性の働きやすい環境を整えることが、組織の成長と安定に直結する重要な課題です。

介護福祉業界は、女性が多くを占める職場です。だからこそ、賃金格差の解消だけでなく、女性が管理職に就きやすい環境の整備や、柔軟な働き方の導入、そしてキャリアアップをサポートする体制の構築が重要です。これまでの経験から、こうした環境整備が実現すると、職員の定着率が向上し、ひいてはサービスの質向上にもつながることが確認されています。

地域ごとの課題に対しても、当事務所は地域の実情に合わせた支援を提供しています。たとえば、地方の中小企業や福祉事業所においては、女性が長く働き続けられる環境作りが経営の安定につながると同時に、地域社会の発展にも貢献します。地方での賃金格差解消に向けては、賃金だけでなく、職場環境全体を見直し、女性がより多くの役割を担えるようにサポートしていく必要があります。

これらの課題解決に向け、当事務所では、引き続き中小企業や介護福祉事業所の皆様に対し、きめ細かいアドバイスと具体的な解決策を提供してまいります。女性の活躍を後押しすることで、組織全体の成長と持続可能な社会の実現に寄与していきたいと考えています。

男女間賃金格差がもたらす組織と社会への影響

賃金格差は単なる労働条件の不平等にとどまらず、組織全体の運営に深く影響を与える問題です。特に、女性が賃金面で不利な立場に置かれ続けることは、優秀な人材の流出を招き、企業の成長を妨げる要因となります。賃金格差を是正し、女性が活躍できる環境を整えることは、企業の競争力を高めるとともに、長期的な経済成長を支える基盤となるのです。

さらに、地域経済においても、女性の就業環境改善は不可欠です。地方では、特に若年女性の流出が深刻な問題となっており、その背景には賃金格差やキャリア形成の難しさがあるとされています。地域における女性の働きやすさを向上させることで、地域全体の持続的な発展が期待できるのです。

具体的な解決策と今後の取り組み

当事務所が労務相談顧問の顧問先の企業様に対して提供する解決策は、まず企業の現状を的確に把握し、それに基づいて最適な施策を提案することにあります。賃金格差の問題については、ただ単に給与の見直しを行うのではなく、管理職に占める女性の割合を増やすためのキャリア支援や、職場内の多様性を促進する取り組みを強化することが求められます。こうした取り組みが、組織に新たな視点や発展の可能性をもたらすと同時に、女性労働者の長期的な定着を支えるのです。

また、介護福祉事業所では、特に現場業務における柔軟な勤務体制の導入が効果を発揮します。例えば、育児や介護と両立できる働き方を実現するために、シフトの調整や在宅勤務の導入を進めることで、職員のストレスを軽減し、結果として業務の効率化やサービスの質向上が図られるでしょう。

賃金格差の是正と併せて、労働環境の全体的な改善が、企業の競争力を高める上で不可欠です。特に、中小企業や介護福祉事業所は、資源が限られていることが多いため、効果的な施策を効率的に導入する必要があります。こうした環境整備は、単に「コスト」ではなく、企業の成長を支える「投資」として位置付けるべきです。

最後に

女性の職業生活における活躍を促進するためには、賃金格差の解消だけでなく、働きやすい環境作りやキャリア形成の支援が欠かせません。これらの取り組みが、企業の成長を支える基盤となり、地域社会全体の発展にもつながります。当事務所では、これまでの経験を活かし、顧問先企業や介護福祉事業所の皆様に対して、効果的かつ持続可能な解決策を提供し続けます。

賃金格差や労働環境の改善に向けた具体的な提案やアドバイスが必要な方は、ぜひ当事務所までご相談ください。共に、より良い未来を築いていきましょう。

【参考サイト】厚生労働省 第6回女性の職業生活における活躍推進プロジェクトチーム
【参考資料】厚生労働省 雇用環境・均等局 都道府県別の女性の就業状況等について

令和7年4月1日施行の雇用保険制度改正とは?中小企業と介護福祉事業所への影響を解説(3)

2025年4月1日から施行される「令和6年雇用保険制度改正」には、多岐にわたる変更が盛り込まれていますが、特に注目すべきは育児休業関連の新たな制度や改正です。前回は「出生後休業支援給付」の創設について説明してきましたが、今回は「育児時短就業給付」、「育児休業給付」について掘り下げていきます。

企業にとって、これらの変更を正確に理解し、対応することは、従業員の働きやすさや企業全体の競争力を高めるために非常に重要です。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

「育児時短就業給付」について

育児時短就業給付の現状と課題

  • 現状と課題:

    • 現在の制度では、育児のために短時間勤務を選択し、賃金が低下した労働者に対して支給される給付制度は存在していません。
    • 「共働き・共育て」の推進や、育児休業後の労働者が育児とキャリアを両立できるよう、柔軟な働き方として短時間勤務制度を選択できるようにすることが求められています。
  • 見直し内容:

    • 2歳未満の子を養育するために時短勤務をしている被保険者を対象とした「育児時短就業給付」を新たに創設する予定です。
    • 給付率は、休業よりも時短勤務、時短勤務よりも従前の所定労働時間での勤務を推進する観点から、時短勤務中に支払われた賃金額の10%とする予定です。
  • 財源:

    • この給付の財源には「子ども・子育て支援金」が充当される予定です。
  • 施行期日:

    • 施行は2025年4月1日から予定されています。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

 

育児休業給付について

育児休業中に出向(出向解除)となった場合の取扱いの見直しについて

  • 現状:

    • 被保険者が育児休業中に出向(または出向解除)となった場合、出向(出向解除)時点で一旦育児休業が終了し、出向(出向解除)後の事業所で育児休業を分割取得したものとして取り扱われています。
    • その結果、以下のような状況では育児休業給付金が支給対象外となることがあります。
      1. 子が1歳までの間において、出向(出向解除)後の事業主の下での育児休業が3回目以降になる場合(例1、2)。
      2. 子が1歳に達した後に出向(出向解除)後の事業主の下で育児休業を取得する場合(例3、4)。

 

  • 見直しの方向性(案):

    • 出向については、必ずしも本人の希望により行われるものではないことから、出向(出向解除)により育児休業給付金が支給されなくなることがないように、省令を改正する予定です。具体的には、以下のような状況でも育児休業給付金が支給対象となるようにすることを検討しています。
      1. 子が1歳までの間において、出向(出向解除)後の事業主の下での育児休業が3回目以降になる場合。
      2. 子が1歳に達した後に、出向(出向解除)後の事業主の下で育児休業を取得する場合。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

 

出生時育児休業給付金の支給早期化について

  • 現状:

    • 出生時育児休業給付金の支給申請期間は、「子の出生日(出産予定日前に出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日」から、「その日から起算して2か月を経過する日の属する月の末日」までと定められています。
    • さらに、出生時育児休業が終了した場合でも(例: ①28日間の出生時育児休業を取得し終えた場合や、②2回の出生時育児休業を取得し終えた場合)、支給申請は「子の出生日(出産予定日前に出生した場合は出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日」以後でなければ行うことができないとされています。

上記の支給申請期間や手続きに関しては、次の図を参照してください。

  • 見直しの方向性(案):

    • 28日間の出生時育児休業を取得した場合や、2回の出生時育児休業を取得し終えた場合には、その終了日の翌日以後に支給申請手続きを行えるよう、省令を改正する方向で話が進められています。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

事務所としての見解

2025年4月1日から施行される「令和6年雇用保険制度改正」において、育児休業に関連する改正は、日本社会の育児支援のあり方を根本的に見直す契機となるでしょう。特に、育児時短就業給付の創設や支給対象範囲の拡大、支給限度額の算定方法の見直しなど、さまざまな施策が導入されることで、働く親が安心して育児と仕事を両立できる環境が整えられつつあります。

当事務所としては、これらの改正が企業や労働者に与える影響を慎重に分析し、労務相談顧問の顧問先の企業様が円滑にこれらの制度に適応できるように支援を行ってまいります。まず、育児時短就業給付の導入により、育児休業を取得した従業員がより柔軟な働き方を選択できるようになります。企業にとっては、従業員が育児に専念しつつ、職場に復帰しやすい環境を整えることが、長期的な人材確保と企業成長に寄与すると考えます。

さらに、育児休業の支給申請手続きの見直しにより、従業員の負担が軽減されるだけでなく、企業の管理コストも削減されるでしょう。これにより、より効率的な業務運営が可能となり、労働者が仕事と育児のバランスを取りやすくなります。企業は、これを機に育児支援のための社内制度を見直し、働きやすい職場環境の構築に取り組むべきです。

今回の改正は、育児支援の枠組みを一層強化するものであり、企業と従業員の双方にとって大きなメリットをもたらします。当事務所は、これまで培ってきた知識と経験を基に、顧問先企業がこの制度を最大限に活用し、持続可能な成長を遂げられるよう全力でサポートいたします。これからも社会の変化に柔軟に対応し、顧問先企業と共に成長していくことを目指します。

最後に、このコラムシリーズを通じて、読者の皆様が育児休業制度に対する理解を深め、企業運営に役立つ新たな視点を得ていただけたことを願っています。育児と仕事の両立は、企業の持続可能な発展において非常に重要なテーマです。当事務所は、これからも企業と従業員の双方にとって価値のある情報を提供し、より良い職場環境の構築を支援してまいります。社会全体が働きやすい環境を築くために、皆様と共に歩んでいくことを心から願っております。

【参考リンク】第197回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会
【参考資料】令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)

令和7年4月1日施行の雇用保険制度改正とは?中小企業と介護福祉事業所への影響を解説(2)

2025年4月1日から施行される「令和6年雇用保険制度改正」の一環として、育児休業給付に関する重要な改正が行われます。その中でも特に注目されるのが、「出生後休業支援給付」の創設です。この給付金は、男女が共に育児に積極的に参加することを奨励し、特に男性の育児休業取得を促進する目的で導入されました。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

出生後休業支援給付の創設

出生後休業支援給付の支給範囲と給付率

「出生後休業支援給付」は、2025年4月1日から施行される雇用保険制度改正に基づいて導入される新たな給付制度です。この給付金は、育児休業給付金と併せて育児休業等給付の一環として提供されるもので、特に「共働き・共育て」を推進し、男性の育児参加を促進することを目的としています。
 
具体的には、給付の対象となる休業期間は、被保険者がその子の出生後8週間以内に取得した育児休業です。この期間中、被保険者およびその配偶者がそれぞれ14日以上の育児休業を取得する場合、最大28日間、休業開始前の賃金の13%が支給され、育児休業給付金と併せることで、休業中の手取り収入が100%となるよう設計されています。
 
この制度は、育児休業を取得する労働者の経済的負担を軽減し、安心して育児に専念できる環境を提供することを目指しています。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

 
 

事務所としての見解

今回の「出生後休業支援給付」の創設は、育児と仕事の両立を支援するために非常に画期的な制度です。この給付金は、特に男性の育児参加を奨励する目的で導入されており、企業にとっても重要な意味を持ちます。日本社会において、男性の育児休業取得率は依然として低い状況が続いており、これを打破するための新たな施策として、企業は積極的に取り組むべきです。

当事務所としては、この新制度がもたらす可能性を最大限に活用し、労務相談顧問先の企業様が適切に対応できるようサポートいたします。まず、企業は従業員に対してこの新制度についての理解を深め、育児休業の取得を推奨する姿勢を示すことが重要です。特に男性従業員が育児休業を取得しやすい環境を整えることで、企業全体の働きやすさや従業員の満足度が向上するでしょう。

また、企業は育児休業取得による業務の引き継ぎや復帰後の支援体制をしっかりと整備する必要があります。これは、育児休業を取得する従業員が安心して休業に入れるだけでなく、業務効率の低下を防ぐためにも重要です。さらに、育児休業期間中に従業員がキャリアを中断しないよう、スキルアップの機会を提供することも企業の責任として捉えるべきです。

今回の改正は、企業にとって単なる法的義務を超え、企業文化の改革や社会的責任の遂行といった大きなテーマに関わっています。育児休業支援を通じて、企業が社会に対してどのような価値を提供できるかが問われています。顧問先の企業がこの制度を単なるコストと捉えるのではなく、長期的な投資と考え、従業員の育児支援を積極的に行うことを支援します。

当事務所は、これまでの豊富な経験と専門知識を基に、企業がこの制度を適切に導入し、活用できるよう全力でサポートいたします。今後の社会情勢の変化にも柔軟に対応し、企業の持続的な成長を実現するためのパートナーとして、引き続き精力的に支援を行ってまいります。

【参考リンク】第197回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会
【参考資料】令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)

令和7年4月1日施行の雇用保険制度改正とは?中小企業と介護福祉事業所への影響を解説(1)

2024年8月27日、東京で開催された第197回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会において、「令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)」が議題の一つとして取り上げられました。この改正は、雇用保険制度を取り巻く環境の変化に対応し、労働市場の安定性と柔軟性を高めることを目的としています。特に、介護福祉事業所や中小企業においては、従業員の雇用安定と人材確保が事業運営の基盤であり、今回の改正内容がどのように影響を及ぼすかについて、深く理解することが求められます。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

雇用保険制度改正の背景と目的

近年、日本の労働市場は急速な変化を遂げています。少子高齢化の進展に伴い、労働力人口の減少が進む中、労働者のキャリア形成支援や、育児・介護と仕事の両立支援がますます重要視されています。このような背景から、雇用保険制度の見直しが必要とされ、今回の改正が実施されることとなりました。

改正の主なポイントとしては、自己都合退職者に対する給付制限の緩和、育児休業給付に係る保険料率の引き上げ、教育訓練支援給付金の給付率引下げ、そして新たな給付制度の創設などが挙げられます。これらの改正は、労働者が安心して再就職活動を行い、家庭と仕事のバランスを保つための支援策として、大きな意義を持っています。

自己都合退職者に対する給付制限の緩和

自己都合で退職した労働者に対しては、これまで失業手当の支給に一定期間の給付制限が設けられていました。この制限は、労働者の再就職活動を遅らせる一因となっており、特に中小企業や介護事業所における労働者にとっては、経済的な不安が大きな課題となっていました。

今回の改正では、労働者が自発的に公共職業訓練を受講した場合、この給付制限が解除され、早期に失業手当が支給されるようになります。この措置は、労働者が迅速に再就職活動を行えるよう支援するものであり、企業側にも労働市場の流動性を高める効果が期待されます。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

就業促進手当の見直し

今回の改正では、早期再就職を支援する「就業手当」が廃止される一方、再就職後の定着支援を目的とした「就業促進定着手当」の給付上限が引き下げられます。具体的には、従来の基本手当日額の30%を支給する就業手当が廃止され、再就職後6か月間の賃金が離職前より低下した場合に支給される「就業促進定着手当」の上限額が見直されます。この改正により、早期再就職よりも労働者が新しい職場に長期的に定着することが奨励されるため、企業には従業員の定着率向上に向けた取り組みが一層求められることになります。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

育児休業給付に係る保険料率の引上げと弾力的な仕組みの導入

育児休業給付に関する改正では、育児休業給付に係る保険料率が現行の0.4%から0.5%に引き上げられることが予定されています。この改正は、男性育休の取得増加や育児休業給付の支給額増大に対応するためのもので、保険財政の健全化が急務とされています。また、保険財政の状況に応じて、将来的に保険料率を0.4%に引き下げることが可能となる弾力的な仕組みも導入されます。この仕組みは、保険財政の安定を保ちながら、育児休業を奨励する施策としての役割を果たします。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

教育訓練支援給付金の給付率引下げと雇止めによる離職者の特例措置

教育訓練支援給付金の給付率が、従来の基本手当日額の80%から60%に引き下げられることが決定されました。この改正は、訓練受講者に対する給付が縮小される一方で、労働市場の効率的な再編を目指したものです。また、雇止めによる離職者の基本手当の給付日数に係る特例措置は、令和8年度末まで継続されます。この特例措置は、雇用機会が不足する地域や雇用の不安定さに直面する労働者の生活を支えるための重要な支援策として位置付けられています。

令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)について

事務所としての見解

今回の雇用保険制度改正は、企業と労働者双方にとって、労働環境の改善や雇用の安定を目指すための重要なステップです。この改正を適切に理解し、実務に反映させることは、企業が長期的な成長を遂げるための鍵となります。当社労士事務所としては、この改正がもたらす課題と機会をしっかりと捉え、労務相談顧問先の企業様が最適な対応を取れるようサポートしていきます。

労働市場の流動性が高まる中で、企業は従業員のキャリア形成や雇用継続に積極的に関与することが求められます。特に、中小企業や介護福祉事業所では、労働者の定着と成長が事業の安定に直結します。この点において、今回の改正を機に、教育訓練の提供や再就職支援に注力することは、労働者の満足度を高め、結果的に企業の競争力を強化することにつながります。

当事務所は、法改正の背景や目的を深く理解し、その中から企業にとって最も効果的な対応策を見出します。労働法や雇用保険制度に関する知識を活かし、企業の現状と照らし合わせながら、具体的な提案を行ってまいります。さらに、企業が直面する様々な課題に対して、柔軟かつ的確なアプローチで解決策を提供し、企業の健全な発展を支援します。

この改正を単なる法的変更として受け止めるのではなく、企業の成長と従業員の幸福を両立させるための一歩として捉え、一緒に歩んでいくことが重要です。当事務所では、労務相談顧問先の企業様が直面する変化をともに乗り越え、より良い未来を築くためのサポートを惜しみません。

【参考リンク】第197回労働政策審議会職業安定分科会雇用保険部会
【参考資料】令和6年雇用保険制度改正(令和7年4月1日施行分)

 

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