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目標管理制度

目標管理制度とは、1954年にP. F. ドラッカーが著書『現代の経営』で提唱した組織マネジメントの概念です。これは、「目標を使って経営を最適化する管理手法」を指します。
誤解されがちですが、単に「目標を管理する」制度ではありません。

目標管理制度の基本概念

具体的には、組織全体の目標を階層別に細分化し、最終的に個人の目標とリンクさせることで、組織と個人のベクトルを合わせます。重要なのは、上位組織で設定された目標をそのまま部下に押し付けるのではなく、部下自身が上位の目標の意味を解釈し、自分の目標として設定するプロセスを上司と共に考えることです。これにより、部下に組織への貢献意識が芽生え、目標達成に対する意欲が高まります。

目標管理制度と内発的モチベーション

目標管理制度(MBO)は、従業員の内発的モチベーションに強く影響することが示されています。内発的モチベーションとは、外的報酬によらず、仕事そのものの面白さや達成感から生じる動機付けです。研究によれば、MBOは以下の要素を通じて従業員の内発的モチベーションを高めます:

1.目標の質:具体的で困難な目標は、従業員の有能感を刺激し、自己効力感を高めます。適切な難易度の目標を設定することは、従業員にとってやりがいや達成感を提供し、内発的モチベーションを向上させる要因となります。目標が明確で高いレベルのものほど、従業員のパフォーマンス向上に寄与することが多くの研究で確認されています。

2.面談の質:上司と部下の間での目標設定面談は、従業員の自律性を高めます。上司が部下の意見を尊重し、自己決定感を持たせることで、従業員の内発的モチベーションが高まります。面談では、目標の意義や達成の意味を十分に説明し、納得のいく目標設定を行うことが重要です。質の高い面談が行われることで、従業員は自己統制の感覚を得ることができ、目標達成に向けた意欲が高まります。

3.上司との関係:上司との良好な関係は、従業員の関係性欲求を満たし、内発的モチベーションを高める要因となります。支持的なフィードバックや肯定的な承認が重要であり、上司の期待と信頼が従業員のモチベーションに大きく寄与します。上司が部下の進捗状況を気にかけ、適切なサポートを提供することで、従業員は安心感を持って業務に取り組むことができます。

福祉業界における適用

福祉業界においては、数値目標の設定が難しいことがしばしばあります。しかし、目標管理制度の原則を応用し、以下のような工夫を行うことで効果的に運用できます:

定性的評価:評価を定性的なレベルにとどめ、処遇や報酬に直結させずに、目標管理をコミュニケーションツールとして活用します。これにより、従業員の能力開発や業務改善に役立てることができます。定性的な評価は、数値目標の設定が困難な福祉業界において特に有効です。

コミュニケーションの強化:目標設定や評価のプロセスを通じて、上司と部下の間でのコミュニケーションを強化し、目標の意義や達成の意味を共有します。コミュニケーションの質が向上することで、従業員は自己の役割を理解しやすくなり、組織への貢献意識が高まります。

参画意識の向上:従業員に組織への貢献意識を持たせるため、目標設定に積極的に参加させ、その達成への意欲を引き出します。参画意識が高まることで、従業員は自らの役割と組織全体の目標との関連性を理解しやすくなります。

運用のポイント

具体的な目標設定:目標は具体的であり、かつ従業員の成長や組織目標に関連するものとします。これにより、従業員は目標達成に向けた明確なビジョンを持つことができます。具体的でやりがいのある目標設定が従業員の内発的モチベーションを高めることが研究で示されています。

定期的なフィードバック:上司は定期的に従業員の目標達成状況を確認し、フィードバックを提供します。これにより、従業員は自己の進捗を把握し、必要な調整を行うことができます。定期的なフィードバックが従業員の自己効力感を高め、目標達成に向けた努力を促します。

継続的な支援:上司は目標達成に向けたサポートを継続的に行い、従業員が目標に向かって努力するための環境を整えます。上司の支援が従業員の有能感を高め、内発的モチベーションの向上につながります。

モチベーションの維持:目標管理制度の運用において、上司は従業員のモチベーションを維持するための工夫を行います。例えば、達成した目標に対して適切な報酬や認知を与えることで、従業員の努力を称え、さらなる挑戦に向けた意欲を引き出すことが重要です。

 

目標管理制度は、従業員の内発的モチベーションを高め、組織全体のパフォーマンス向上につなげる強力なツールです。特に、目標の質、面談の質、上司との関係性の3要素が従業員のモチベーションに与える影響は大きく、それぞれの要素を適切に運用することで、効果的な目標管理が可能となります。
このように、目標管理制度を効果的に運用することで、従業員の内発的モチベーションを高め、組織全体のパフォーマンス向上につなげることが可能です。

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