採用|身元保証書を提出してもらっていますが、職員が損害を与えた場合、身元保証人にどこまで請求できますか?
身元保証書による保証人への賠償請求は、身元保証ニ関スル法律と裁判例により「賠償額・期間・責任範囲」が厳格に制限されています。保証人に損害額全額の請求が認められることは極めて稀で、多くの場合裁判所は諸事情を考慮して責任を加減しています。
有効期間と自動更新
身元保証契約の有効期間は、期間の定めがなければ3年、定めても最長5年。自動更新条項は原則無効で、再契約が必要とされた判例が複数存在します(札幌高裁昭和52年8月24日判決、東京地裁昭和45年2月3日判決など)。
職員が事業所に損害を与えた場合でも、裁判所は「事業所の監督責任の度合い」や「保証人が保証するに至った経緯」などを考慮して賠償額を減額・免除することがあります。したがって、損害額の全額を保証人に請求できるとは限りません。
責任範囲と減額裁判例
社員の損害全額を補償責任とする判決は極めて少なく、2割~7割程度が多いです(ワールド証券事件:東京地裁平成4年3月23日判決で全損害約1億4800万円のうち、保証人2名は4,140万円・約4割のみの責任とされた例など)。
会社側の監督体制(チェック体制の不備など)や保証人と被用者の関係、重大な過失の有無を考慮し、大幅に減額されることが多いです。たとえば、
- 現金管理の不備があった事例:保証人責任50%(旭川地裁平成18年6月6日等)
- 料理店の売上金詐取:保証人責任10%(東京地裁平成5年11月19日)
- 被害額を4割とする例も(東京地裁2016年3月判決等)
- 実際に2000万円弱の損害額に対し、保証人責任200万円(1割)に留まった例も
行政見解・通達
身元保証人制度自体について「現代的な労働契約精神とは必ずしも合致しない」との行政見解も複数存在しています。
実務上の注意点と総合的リスク管理
身元保証書だけに依存せず、労務管理体制や職員への教育・監督、賠償責任保険の導入など多面的なリスク管理が重要とされます。
このように身元保証人への賠償請求は法的根拠と厳重な制限があり、実際の責任割合は減額されるのが通例です。契約期間・更新方法、請求範囲、リスク管理の実践などについて、判例・行政指導の正確な理解が不可欠です。
労務管理におけるリスクは多様化しています。身元保証だけでなく、事業所の実態に合った総合的なリスクマネジメント体制の構築について、社会保険労務士がサポートいたします。