休職・メンタルヘルス|うつ病で休職している職員に、退職を勧めるのは?
原則として、うつ病などの精神疾患で休職中の職員に対して、退職を「勧める」ことは慎重であるべきです。
タイミングや言い方によっては、「退職強要」「不当な退職勧奨」「ハラスメント」に該当する可能性もあります。
とくに、職員が「治療中」であるにもかかわらず、退職を強く促した場合、後に労働トラブルへ発展するケースが後を絶ちません。
対応のポイント:
治療状況や復職可能性について、主治医の意見書などをもとに冷静に把握する。
本人が「退職を望んでいる」かどうかを慎重に確認し、文書でも残す(できれば録音も)。
会社の都合で辞めさせるなら「解雇」扱いとなり、正当な理由と手続きが必要です。
うつ病で休職している職員への退職勧奨に関する裁判例
京都地方裁判所 平成26年2月27日判決(平24(ワ)348号)
うつ病を理由に退職勧奨を受けた社員が、その後休職し、休職期間満了で退職扱いとされた事案。
裁判所は、退職勧奨が執拗に繰り返され、社員の自由な意思を妨げる「退職強要」に該当すると認定。うつ病が悪化したことも考慮し、休職期間満了による退職を無効とし、慰謝料の支払い(30万円)を命じた
東京地方裁判所 平成20年4月22日判決(東芝事件)
- うつ病で休職中の従業員が、休職期間満了後に復職できなかったことを理由に解雇された事案。
- 長時間労働がうつ病の原因とされ、会社の対応が不十分だったため、解雇は無効とされ、未払い賃金等の支払いが命じられた
その他の裁判例
休職期間満了後も復職できない場合、就業規則に基づく退職扱いを適法とする判例もあるが、退職勧奨や解雇の過程で強要や不当な圧力があった場合は違法と判断されるケースが多い
裁判所の判断ポイント
- 退職勧奨が「本人の自由な意思」に基づくものであるか。
- 執拗な退職勧奨や長時間の面談、脅迫的な言動があったか。
- 会社側が休職制度や復職支援などの適切な対応を行っていたか。
- 退職勧奨がうつ病の悪化に影響したかどうか。
厚生労働省の通達・ガイドライン
厚生労働省のガイドラインでは、退職勧奨は「本人の意思に基づくもの」でなければならないと明記されています。過度な圧力や脅迫的な言動は違法となり、損害賠償請求の対象となります
うつ病等のメンタルヘルス不調者への対応では、まず休職や配置転換などの代替措置を講じ、復職支援プログラム(リワーク支援等)を活用することが推奨されています
「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(厚労省発行)では、職場復帰の判断や手順、復職後の支援体制の整備について具体的な指針が示されています
実務上の注意点
- 退職勧奨は、あくまで従業員の自由意思を尊重し、強要や執拗な働きかけは避ける。
- 休職制度や復職支援の説明・実施を十分に行い、記録を残す。
- 退職勧奨の際は、家族の立会いや熟慮期間の付与など、慎重な対応が求められる。
- うつ病の職員に対しては、特に安全配慮義務やメンタルヘルス対策の観点から、丁寧な対応が必要