年次有給休暇|「職員が退職を申し出たら、年休は取らせなくていい」と聞いたのですが?

退職を申し出た職員にも、有給休暇の取得権はあります。

労働基準法第39条に基づき、退職予定者であっても退職日までの間に有給休暇を取得する権利は認められています。
また、本人の請求があれば、原則として希望する日に取得させなければなりません。

よくある誤解

「退職者に有給休暇を使わせないのが慣例だ」「辞めるならその分働いてもらわないと困る」

こうした理由で取得を拒否することは、労働基準法違反になる可能性があります。

時季変更権の限界

時季変更権(第39条第5項)により、事業運営上著しい支障がある場合は取得時期を変更できるとされています。
しかし、退職までの期間が短い場合、「他の日に与える」ことが事実上困難であるため、時季変更権の行使が否定されやすいとされています。

関連法令・通達・裁判例

■ 労働基準法第39条第1項・第5項

「使用者は、労働者の請求する時季に、年次有給休暇を与えなければならない。」
「ただし、事業の正常な運営を妨げる場合に限り、他の時季にこれを変更することができる。」

■行政通達(昭和49年1月11日 基収5554)

「年休の権利が労基法に基づくものである限り、その労働者の解雇予定日(退職日)を超えての時季変更権行使は行えない」とされています。つまり、退職日までに有給休暇の取得を希望された場合、会社は時季変更権を行使できず、取得を拒否できません。

■厚生労働省Q&A

和歌山県労働局のサイトでは「退職間際の労働者から、残った年休を退職日までの勤務日に充てたいといわれたら、拒むことはできません。実際上、退職前の業務の引継ぎなど必要がある場合は、退職日を遅らせてもらうなど、退職する労働者と話し合ったほうがよい」と明記されています。

有給休暇の買い上げについては、法定日数分については原則として認められませんが、退職等で消滅する場合は買い上げが可能です。

裁判例

1. 大阪地裁令和6年3月27日判決(232名一斉有給消化事件)
事件の概要:病院の事業譲渡に伴い、全職員が譲渡日に退職し、その後新事業者に雇用されることとなった。譲渡日に退職する職員のうち約3分の2にあたる232名が、一斉に退職前の有給休暇の取得を申請した。
裁判所の判断:一般的には退職前の有給休暇申請について、使用者が時季変更権を行使することは認められない(退職日以降に取得できないため)。しかし、本件のように232名が一斉に有給休暇を申請し、病院業務に重大な支障が生じることが明らかな場合には、使用者は労働者ができるだけ有給休暇を取得できるよう配慮しつつ、時季変更権を行使することが許されると判断した。

2. 東京地裁平成21年1月19日判決(退職前引き継ぎ業務命令事件)
事件の概要:退職する従業員が、それまで取得できなかった有給休暇(34日分)を退職前にまとめて申請した。会社は「退職日まで引き継ぎ業務を行うように」と命じ、有給休暇の取得を拒否。従業員は命令に従わず出社しなかったため、会社はその期間の給与を支払わなかった。従業員は「有給休暇の申請をして休んだのに給与が支払われないのは不当」として訴訟を提起。
裁判所の判断:会社が引き継ぎ業務のために時季変更権を行使したことは適法と認定し、従業員の請求を棄却した。原則として退職前の有給休暇申請は認められるが、引き継ぎなど事業運営上やむを得ない場合には時季変更権の行使が認められるとした。

3. 聖心女子学院事件(神戸地裁昭和29年3月19日判決)
事件の概要:退職に伴い、退職金および未消化の年次有給休暇日数に相当する賃金の支払いを求めたが、会社側は「退職とともに有給休暇請求権は消滅する」と主張。
裁判所の判断:原告らは退職までに有給休暇請求を行使しておらず、退職とともに休暇請求権は消滅するため、未消化分の賃金請求は認められないと判断した。

 

実務ポイント

退職予定者であっても、法定の有給休暇取得は本人の権利であり、原則として拒否はできません。
限られた出勤予定日のなかで、合理的かつ円満に対応するための準備が必要です。

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