雇用契約|利用者が減ったので、「急きょシフトゼロ」にしてもいいですか?
原則として、労働契約で定めた所定労働日・所定労働時間を、使用者が一方的にゼロにすることはできません。
特に、パートタイマーや短時間勤務職員であっても、「週◯日勤務」「月◯時間勤務」などの合意が契約書や雇用通知書に明記されている場合には、それが契約上の労働義務日になります。これを使用者の都合だけでキャンセルすることは、債務不履行や労基法違反とされるリスクがあります。
根拠となる法令・通達・判例
■ 労働基準法第15条:使用者は、労働契約を締結する際に、労働条件について書面で明示しなければならない。
➡ 明示された「労働日数」「労働時間」が契約内容となります。
■ 労働契約法第8条(就業規則の変更と不利益変更の制限):労働契約の内容は、労使間の合意がない限り、一方的に変更できない。
➡ 「利用者が減った」という事業上の理由があっても、雇用契約に明示された勤務日数をゼロにするには、本人の同意が必要です。
■アルバイト従業員に対してシフトをゼロにすることが実質的な解雇にあたり、不当解雇と認定された判例として、東京地方裁判所の2020年11月25日判決が代表的です。
➡この判例の概要は以下の通りです。
- 介護事業を営む会社に雇用されたパート従業員が、従前は月13~15日のシフトで勤務していたが、8月に5日、9月に1日、10月以降はゼロにシフトが削減された。
- 裁判所は、シフト制で勤務する労働者にとってシフトの大幅な削減は収入減少に直結し不利益が著しいため、合理的な理由なく大幅にシフトを削減することは「シフト決定権限の濫用」にあたり違法と判断した。
- 具体的には、9月・10月のシフトゼロは合理的理由がなく違法であり、直近3か月の平均賃金との差額の支払いを命じた。
- 8月の5日勤務への削減は一定の勤務時間が確保されているとして違法とは認められなかった。
- この判断は民法536条2項(使用者の責めに帰すべき事由による就労不能の場合の賃金請求)に基づくもので、労働基準法26条(休業手当)とは異なる法理である。
この判例は、シフトカットに関する裁判例が少ない中で、シフトを実質的にゼロにすることが解雇に準じる扱いとなり得ることを示しています。合理的な理由なく大幅なシフト削減をすることは違法とされ、賃金請求が認められるケースがあることが明確に示されました。
■ 厚生労働省のサイトより:いわゆる「シフト制」について
厚生労働省のサイトでは「いわゆる「シフト制」で働く労働者の雇用管理を行うにあたり、使用者が現行の労働関係法令等に照らして留意すべき事項を、一覧性をもって示すことにより、適切な労務管理を促すことで、労働紛争を予防し、労使双方にとってシフト制での働き方をメリットのあるものとするため、留意事項を作成した」とあります。
【参考資料】いわゆる「シフト制」により就業する労働者の適切な雇用管理を行うための留意事項
運用上のポイント
- 業務量の変動に備えるには、雇用契約書に「勤務日数は週◯日を基本とし、業務の繁閑により変動する場合がある」といった記載が必要です。
- また、「一定日数未満の場合は休業手当を支給する」等の規定がないと、労働基準法第26条の「休業手当(平均賃金の60%以上)」の支払いが必要になります。
突然の業務量減少に備えた契約設計やシフト運用は、トラブル防止のカギです。当事務所では、短時間労働者向けの柔軟な雇用契約の作成や、就業規則への反映支援を多数行っております。
シフト調整にお困りの際は、お気軽にご相談ください。