適正な労務リスクマネジメントについて一緒に考えてみませんか、「人事労務」の専門家が身近にいる安心を感じてください。

高齢者施設における労働安全衛生のポイント(1)

高齢者介護施設における労働安全衛生は、利用者の安全と質の高い介護サービスの提供に直結します。介護労働者の安全と健康を確保することは、施設の運営において非常に重要です。本記事では、厚生労働省が発表した「第14次労働災害防止計画」の内容を踏まえ、高齢者施設における労働安全衛生のポイントを特集します。第1回は、腰痛予防と転倒防止に焦点を当てます。

第14次労働災害防止計画とは

「第14次労働災害防止計画」は、労働災害の防止を目的とした5カ年計画であり、2023年から2028年までの期間を対象としています。この計画では、労働災害防止のための具体的な施策が示されており、特に中小事業者や第三次産業における対策が強調されています。

計画の主なポイント:

  • 死亡災害の減少:5%以上の減少を目指す。
  • 死傷災害の抑制:増加傾向に歯止めをかけ、減少を目指す。
  • 高年齢労働者の安全対策:高年齢労働者に特有のリスクを考慮した対策を推進。
  • 多様な働き方への対応:外国人労働者や非正規労働者に対する安全対策を強化。

腰痛の発生とその対策

介護労働者の労働災害の中で最も多いのが腰痛です。利用者の移乗や移動、入浴やトイレ介助など、腰に負担がかかる作業が日常的に行われています。「第14次労働災害防止計画」でも、腰痛予防が重要な対策として挙げられています。

腰痛の事例と原因

  • 移乗介助:ベッドから車椅子への移動など、前屈みや中腰の姿勢で利用者を抱え上げることで腰に負担がかかります。
  • 入浴介助:更衣や洗身、浴槽への誘導などで不自然な姿勢を取ることが多く、腰痛の原因となります。
  • トイレ介助:狭い空間で利用者を支えながらの介助は、腰に過度の負担がかかります。

腰痛予防の具体的対策

  • ノーリフトケアの導入:「第14次労働災害防止計画」では、ノーリフトケアの推進が重要視されています。利用者の移動を機械や補助具を使用して行い、人力での抱え上げを避けることが推奨されています。
  • 適切な姿勢の維持:前屈みや中腰、ひねりの姿勢を避け、必要に応じて手や膝を床やベッドに着けて体を支えます。
  • 複数人での介助:特に負担の大きい作業は、2人以上で行うようにし、介助の負担を分散します。
  • 定期的なストレッチ:作業の合間に腰や背中の筋肉をほぐすストレッチを取り入れ、疲労を軽減します。

転倒防止の重要性

転倒もまた、介護労働者の大きな労働災害リスクです。利用者の介助中にバランスを崩したり、滑りやすい床での作業中に転倒したりすることがあります。「第14次労働災害防止計画」では、中高年齢女性の転倒防止対策が特に重視されています。

転倒の事例と原因

  • 立ち上がり介助:利用者を立たせる際にバランスを崩して転倒することがあります。
  • 歩行介助:前から手を引く形の介助では、利用者が倒れた際に共に転倒するリスクがあります。
  • 移乗介助:ベッドから車椅子への移動時に、介護労働者がバランスを崩して転倒することがあります。

転倒予防の具体的対策

  • 手すりや福祉用具の使用:利用者の自立を促すために手すりや杖、歩行器を使用し、介助の際には介助ベルトを使用します。
  • 適切な介助方法:利用者の斜め後ろから支える形での歩行介助が推奨されます。これにより、転倒のリスクを低減します。
  • 滑りにくい環境作り:床が滑りやすい場合は、マットを敷くか、防滑処理を施します。濡れた床はすぐに拭き取り、事故を未然に防ぎます。
  • 環境の整備:階段や段差には滑り止めを設置し、暗い場所には適切な照明を設けます。

まとめ

高齢者施設における介護労働者の労働安全衛生は、施設全体の安全とサービスの質向上に不可欠です。「第14次労働災害防止計画」に基づく腰痛と転倒の予防対策は、介護労働者自身の健康を守るだけでなく、利用者へのより良いケアにもつながります。この記事を通じて、介護施設の経営者や管理者が労働安全衛生の重要性を再認識し、具体的な対策を講じることを期待しています。

ページの先頭へ