「令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」とは?(第2回)

前回は、「令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」の全体像(3階建て構造)についてお話ししました。 およそ月額1.9万円という金額は確かに魅力的ですが、いざ申請の準備を始めると、多くの経営者様が悩んでしまうのではないでしょうか。この制度には「各事業所で決めていいこと」がとても多いからです。

対象職種をどこまで広げるか、支給方法は毎月の給与か賞与か、生産性向上の要件をどう満たすか……。国が示しているのはあくまで「枠組み」だけで、その中身をどうするかは、各事業所の判断に委ねられています。

ただ、この「自由度」が高い分、判断を誤ると後々のトラブルや、職員からの不満につながりかねません。 第2回となる今回は、多くの事業所様からご相談いただく、こういった「迷いどころ」を取り上げ、実務的な解決策を一緒に見ていきます。

【参考資料】「介護保険最新情報」Vol.1454 令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業の実施について

対象者が拡大。「誰に?・いくら?」

今回の支援事業で大きく変わったのは、これまで対象になりにくかった「訪問看護ステーションの看護師・事務員」や「居宅介護支援事業所のケアマネジャー」なども、1階部分(月額1万円)の対象に含まれる可能性がある点です。

ここで経営者として悩むのが、「公平性」と「予算」のバランスです。

「全員一律」がベストとは限らない

「計算が面倒だし、不公平感が出ないように全員一律に配ろう」と考える方も多いかもしれません。
しかし、事業所に交付される補助額は、計算上の総額です。これを無計画に全職員(対象外の事務職や短時間パート含む)に薄く広く配ってしまうと、一人当たりの支給額が数千円程度になってしまい、「賃上げの実感」が湧かないという結果になりがちです。

「パフォーマンスの実態」で判断する

一方で、特定の職種だけを優遇すれば、職場のモラールにも影響します。 ここで大切にしたいのは、形式的な職種名ではなく「業務パフォーマンスの実態」ではないかと当事務所は考えています。

  • 肩書きは事務員だけど、請求業務や窓口対応で現場を支えてくれている。
  • 訪問看護で、オンコール対応など負担が大きい看護師がいる。

このように、「誰が現場を支えているか」という視点で対象や配分を決めることが、職員の納得感につながるのではないでしょうか。今回の制度を、現行のの給与バランスを見直す良い機会にしてみてはいかがでしょうか。

支給方法…「ベースアップ」か「手当」か

国は、職員に長く働いてもらうために「毎月の給与での支給(ベースアップ)」を推奨しています。ですが、経営者としては「半年後もこの支援が続く保証がないのに、基本給を上げてしまっていいのか?」と不安になるのは当然です。

後々のリスクを避けるために

一度「基本給」として上げてしまったお給料は、たとえ国の補助金がなくなったとしても、経営難を理由に簡単には下げられません(労働条件の不利益変更の禁止)。

当事務所では、「別建ての手当」としての運用することを推奨しています。 具体的には、「支援補助金手当」や「特別処遇手当」といった名称にし、基本給とは明確に分けて支給します。

「もしもの時」のルールを決めておく

さらに大切なのが、就業規則(または”給与規程”)への書き方です。単に「月額○○円を支給する」と書くだけでは不十分です。 以下のように、「国の制度が変わった時の対応」をしっかりと明記しておく必要があります。

「本手当は、国の支援事業による交付金を原資とするものであり、同事業が終了、縮小、または当事業所への交付が停止された場合には、支給額の変更または支給を停止することがある。」

この一文があるだけで、将来のリスク管理は大きく変わります。 また、毎月の計算事務を楽にするために、「毎月定額を支給し、端数や調整分をボーナス時期にまとめて払う」という方法も、実務ではよく使われる手法です。

生産性向上:「形だけ導入」か「実務で活用」か

2階部分(月額+約5,000円)をもらうための条件である「生産性向上」。 ここを「補助金をもらうための面倒なハードル」と捉えるか、「業務を楽にするチャンス」と捉えるかで、結果は大きく変わります。

「使わない機器」を増やさない

「生産性が向上するかどうかはわからないけど、とりあえず要件を満たすために、安いセンサーを買っておこう」。このように 「生産性向上」といったお題目として導入された機器が、現場では使われずに倉庫に眠っている……というケースは少なくありません。

「ケアプランデータ連携システム」の意味

今回の要件で注目したいのは、「ケアプランデータ連携システム」の活用が挙げられている点です。これは、FAXや電話中心のアナログな連絡業務をデジタル化して、「人がやらなくていい仕事はシステムに任せよう」というメッセージとも取れます。

約5,000円の上乗せ分は、単なる恩恵的ボーナスではなく、「新しい働き方に慣れるための準備金」と考えるべきです。
生産性向上のための制度導入で事務作業の時間が減れば、その分を利用者様との会話や、職員の休憩時間に充てられます。そうした良い流れを作るための資金として活用できれば、経営にとって大きなプラスになります。

当事務所の見解

ここまで実務的なポイントを見てきましたが、当事務所がこの支援事業を通じて一番お伝えしたいこと。 それは、今回の賃上げに伴う「給与規程の改定」を、単なる事務作業で終わらせないでほしいということです。

多くの経営者様にとって、就業規則や給与規程は「役所に言われたから作るルールブック」かもしれません。 しかし、本来の給与規程…そこに記載されている「各種手当」とは、「会社が何を大切にし、どういう働き方を評価するか」を伝える、職員へのメッセージそのものです。

「うちは、職員みんなの負担を減らして、もっと良いケアができるように生産性向上に取り組みたい。その新しい取り組みに協力してくれるみんなには、しっかり還元したい」

そうした経営者の想いを、規程の文章や、給与明細を渡す時の言葉に込められるかどうか。 それが、今回の支援金を「ただの一時的な支給」で終わらせるか、「会社への信頼を高めるきっかけ」に変えられるかの分かれ道になるのではないでしょうか。

「規程の書き方ひとつで、そんなに変わるの?」と思われるかもしれません。 ですが、当事務所では数々の現場で 「なぜ、この金額なのか」「会社はどういうつもりなのか」がきちんと伝わり、納得して受け取った給与が金額以上の価値になることを数多く見てきました。

面倒な計算や、リスクを避けるための条文作成は、当事務所の専門家にお任せください。 経営者の皆様にこそできることは、その先にある「職員に何を伝えるか」というコミュニケーション。そういったことに、ぜひ時間を使っていただきたいと思います。

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【参考資料】「介護保険最新情報」Vol.1454 令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業の実施について

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