「令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」について(第1回)

明けましておめでとうございます。令和8年(2026年)の幕開けとともに、介護・医療業界に携わる専門家の間では、昨年末に厚生労働省から発出されたある通知が大きな話題となっています。

それが、「令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業」です。
令和7年12月25日厚生労働省老健局から「令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業の実施について」という通達が発出されました。

本コラムでは、数回にわたり、この支援事業を解説していきます。 第1回となる今回は、この制度の全体像と、そこから読み取れる「経営者へのメッセージ」について、お伝えします。

【参考資料】「介護保険最新情報」Vol.1454 令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業の実施について

 制度の骨子:「3階建て」の賃上げ構造

今回の支援事業の最大の特徴は、支援額が「3階建て」の構造になっている点です。 現行の処遇改善加算とは異なり、事業所の「取り組み姿勢」によって、受け取れる補助金額が変動する仕組みが採用されました。

対象期間は、令和7年12月から令和8年5月までの半年間。 まさに今、動き出さなければならない緊急性の高い施策です。

では、その「3階建て」の中身を具体的に見ていきましょう。

【1階部分】全介護従事者へのベースアップ(月額約1万円)

まず、基礎となるのが「月額約1万円」の賃上げ支援です。 これまでの処遇改善加算では対象外となることが多かった職種も含め、幅広い介護従事者が対象となります。

  • 要件: 既存の処遇改善加算を取得していること(またはそれに準ずる要件を満たすこと)。

【2階部分】生産性向上・協働化へのインセンティブ(月額+約5,000円)

 1階部分に加え、「生産性向上」や「協働化」に取り組む事業所の職員に対し、さらに月額約5,000円が上乗せされます。

【要件例:訪問・通所系】:以下の「いずれか」の取り組み

  1. ケアプランデータ連携システムに加入していること。もしくはそれに準ずること。(その年に加入の誓約など)
  2. 社会福祉連携推進法人に所属していること

【要件例:入所系】:以下の「いずれか」の取り組み

  1. 生産性向上推進体制加算ⅠまたはⅡを算定していること。もしくはそれに準ずること。(その年に加算ⅠやⅡの算定を誓約することなど)
  2. ケアプランデータ連携システムに加入していること。もしくはそれに準ずること。(その年に加入の誓約など)
  3. 社会福祉連携推進法人に所属していること

【要件例:(介護予防)訪問看護・(介護予防)訪問リハ等】:以下の「いずれか」の取り組み

  1. ケアプランデータ連携システムに加入していること。もしくはそれに準ずること。(その年に加入の誓約など)
  2. 社会福祉連携推進法人に所属していること

国は明確に、「DX(デジタルトランスフォーメーション)を進める事業所」と「そうでない事業所」で、職員の待遇に差をつける方針を打ち出したことがわかります。

【3階部分】職場環境改善(月額+約4,000円)

さらに最上階として、月額約4,000円の支援が用意されています。 この部分は使途の自由度が高く、賃金改善に充てることはもちろん、職場環境の改善経費として活用することも可能です。

  • 要件: 以下のプロセスを実施すること。

    1. 介護職員等の業務の洗い出し・棚卸しを行い、現場の課題を「見える化」すること。
    2. 委員会・プロジェクトチームなど業務改善活動の体制を構築すること。
    3. 業務内容の明確化と職員間の適切な役割分担の取り組み

令和6年度介護人材確保・職場環境改善等事業による補助金を受けている介護サービス事業については、当該要件を満たしているものとみなされます。

補助金の「使い途」

本事業のもう一つの特徴は、獲得した補助金の使途(補助対象経費)に柔軟性がある点です。 「誰の」「どのような」経費に使えるのか、ルールを確認しましょう。

賃金改善として使う場合

補助金の全額(1階〜3階の合計額)を、職員の賃金アップに充てることが可能です。

  • 賃上げの対象者: 本事業の原資は、介護職員のみならず、その他の職員(訪問看護ステーションの看護師、事務職員、居宅介護支援事業所のケアマネジャー等)の賃金改善にも充当可能です。 ※事業所の判断で、職種間のバランスを考慮した柔軟な配分が認められています。

  • 賃金改善の方法:

    • 原則として「基本給」または「決まって毎月支払われる手当」の引き上げにより行うこと。
    • ただし、就業規則の改定に時間を要する場合など、やむを得ない事情がある場合は、一時金による支給も認められます。

職場環境の改善経費として使う場合

賃金改善だけでなく、以下の「職場環境改善」の経費に充てることも認められています。

  • 対象経費の例:

    • ICT機器の通信費・保守費。
    • 腰痛予防のための移乗支援機器や、見守り機器の導入費用。
    • 職員のスキルアップ研修や、外部研修への参加費用。
    • 介護助手等の募集経費。

訪問看護・ケアマネジャーも対象へ

今回の支援事業で特筆すべきは、これまで「蚊帳の外」に置かれがちだった訪問看護ステーションの看護師や事務職員、居宅介護支援事業所のケアマネジャーなども、対象に含まれたことです。

長年、介護現場からは「同じ利用者様を支えるチームなのに、なぜ職種によって処遇改善に差があるのか」という不満の声が上がっていました。今回の措置は、そうした現場の声に対する一つの回答と言えます。

個人的には、これについては、同時に経営者にとって新たな課題も突きつけられたのではないかとも感じ取れます。 「対象となる職員」と「対象外の職員」の線引き、そして賃金規程の改定プロセスにおいて、これまで以上に繊細かつ迅速な対応が求められるからです。

なぜ今、この支援なのか?背景にある「2つの危機」

国は、令和8年度の報酬改定を待たずに、補正予算を使ってまでこのような緊急支援を打ち出したのでしょうか。そこには2つの「待ったなしの危機」があります。

他産業への人材流出

春闘での大幅な賃上げが続く一般企業に対し、公定価格で運営される介護事業者の賃上げは遅れをとっています。物価高騰も相まって、これ以上の処遇格差は「介護崩壊」を招きかねません。今回の最大1.9万円(年額換算で約22万円強)の支援は、他産業とのギャップを埋めるための緊急止血処置です。

生産性向上の遅れ

もう一つの背景は、介護現場におけるICT化の遅れもあるでしょう。 2階部分の要件に「ケアプランデータ連携システム」などが明記されたことは、「人手を増やすだけの解決策は限界である」という国からの強いメッセージだと感じ取れます。テクノロジーを活用し、少ない人数でも質の高いケアを提供できる体制を作らなければ、これからの時代は生き残れないことを示唆しているのではないでしょうか。

今すぐやるべきこと

制度の概要が見えたところで、経営者の皆様が直ちに着手すべきアクションは以下の3点です。

  1. 情報収集と対象者の洗い出し
    自社のどの事業所、どの職員が、どの階層(1階〜3階)の対象になるかをシミュレーションする。特に「2階部分(生産性向上要件)」を満たせるかどうかは、受給額を大きく左右する。

  2. 労働者代表との協議準備
    今回の支援金は、就業規則や賃金規程の変更を伴う可能性が当然にある。
    また、3階部分を「環境改善」に使う場合、職員の合意形成は不可欠。そのため透明性の高い説明に向けた準備を。

  3. 申請スケジュールの確認 【最重要!】
    各都道府県によって申請期限や手続きの詳細が異なる(多くの自治体では2月〜3月が申請の山場となるのでは?)。期限を過ぎてからの申請は一切認められませんので、担当者はスケジュール管理を徹底。

当事務所の見解

最後に、社労士として、そして数多くの介護経営を見てきたコンサルタントとしての視点から、今回の事業の本質についてお話しします。

多くの経営者は、この制度を「もらえるお金はもらっておこう」という単なる財政支援として捉えるかもしれません。しかし、当事務所はこれを「国による、生き残るべき事業所の選別」であるのではないかとも思えます。

特に注目すべきは、「2階部分(+5,000円)」の要件設定です。 これまでの処遇改善は、「書類さえ整えればもらえる」ものが大半でした。しかし今回は、「ケアプランデータ連携システム」や「ICT活用」といった具体的なアクション(経営努力)を行っている事業所だけが、より多くの報酬を得られる設計になっています。

これは何を意味するのでしょうか。

A事業所は、ICTを導入していないため、支援額は1万円止まり。 B事業所は、ICTを活用して業務効率化を進めており、支援額は1.5万円(+環境改善4千円)。

同じ資格、同じ経験年数であっても、「経営者がDXに前向きかどうか」だけで、職員の給与に月額数千円〜1万円近い差がつく時代が到来したのです。

この差は、採用競争力にも直結します。ICT化に消極的な事業所は、補助金を取り損ねるだけでなく、優秀な人材からも選ばれなくなる——そのような未来が、すぐそこまで来ています。

今回の支援事業を、「面倒な手続きが増えた」と嘆くのか。 それとも、「これを機に、ICT導入を一気に進め、職員に還元し、採用に強い組織に生まれ変わるチャンス」と捉えるのか。

この経営判断の差が、数年後の事業所の存続を分ける分水嶺になると、当事務所は確信しています。 単なる申請代行にとどまらず、「どうすれば2階部分・3階部分を最大限活用し、組織を変革できるか」。 当事務所は、その戦略策定から皆様をサポートいたします。

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【参考資料】「介護保険最新情報」Vol.1454 令和7年度介護分野の職員の賃上げ・職場環境改善支援事業の実施について

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