2027年介護保険制度改革|経営者が今、直視すべき「財源」と「人材」の二大課題と事業所の生存戦略
2025年
11月20日、「第129回社会保障審議会介護保険部会」が開催されました。 この会議の議事録や資料が示唆しているのは、単なる微修正ではありません。以前のコラムでもお伝えしています通り、2027年度から始まる第10期介護保険事業計画期間に向けて、介護保険制度が創設以来の「最大の転換点」を迎えようとしているという事実です。
多くの経営者様が肌で感じておられる通り、この改革の背景にあるのは、年々厳しさを増す『財源の制約』と、事業運営に支障をきたすレベルの深刻な『人材不足』という二つの課題です。
本コラムでは、国レベルで行われている複雑な議論を、現場の『事業経営』の視点から分かりやすく解説します。制度変更の背景にある課題の本質を理解し、今後の制度変更への備えと、持続可能な組織づくりに向けたヒントとしてお役立てください。
【参考サイト】厚生労働省 第129回社会保障審議会介護保険部会の資料について
制度の持続可能性を問う「財源問題」の核心
介護保険制度を持続可能なものにするため、給付と負担のバランスを見直す議論がいよいよ本格化しています。これは、利用者様の生活に直結するだけでなく、事業所の収益構造や事業戦略にも多大な影響を及ぼす重要事項です。
利用者負担の見直し|2割負担の対象拡大は不可避?
現在、介護サービスの利用者負担は所得に応じて1割・2割・3割の3段階に分かれています。令和7年6月時点のデータでは、2割負担が約4.7%、3割負担が約4.2%となっており、大半の利用者が1割負担でサービスを受けています。
この中で最大の焦点となっているのが、「2割負担の対象者を拡大する」という提案です。
拡大を求める背景:公平性の確保
「全世代型社会保障」の理念に基づき、年齢に関わらず能力に応じて負担を分かち合うべきとの考え方が強まっています。少子高齢化が進む中、現役世代の保険料負担の増大を抑制し、世代内・世代間の公平性を確保することが主な目的です。
経営へのインパクトと懸念点
一方で、負担増による「利用控え」が強く懸念されています。医療と異なり、介護サービスは長期間にわたって利用が継続する特性があります。
負担増により利用者がサービスを抑制すれば、事業所の稼働率低下に直結します。さらに、必要なサービスを受けられないことによる利用者の重度化(状態悪化)のリスクも指摘されています。
新たな判断基準:「フロー」から「ストック」へ
議論の中では、年金などの所得というフロー(流れ)だけでなく、金融資産(預貯金等)というストック(資産)も負担能力の判断基準に加えるべきだという案も浮上しています。
高齢者の平均預貯金額が約2,500万円に上るというデータも、この「フローとストック双方で負担能力を測るべき」という議論の根拠となっています。もしこれが実現すれば、資産調査のオペレーションなど、現場の事務負担にも影響が出る可能性があります。
ケアマネジメント費用|利用者負担導入の是非をめぐる攻防
現在、ケアプラン作成などケアマネジメントにかかる費用は全額が保険給付されており、利用者負担はゼロです。これは制度創設時、新しい概念であったケアマネジメントの利用を促進するための特例措置でした。
しかし、制度開始から25年が経過し、長らく自己負担なしで運用されてきたこの費用のあり方が、今改めて問われています。
導入賛成派の論理
ケアマネジメントが国民に定着し、専門職としての地位が確立された今、対価としての利用者負担は妥当である。
「タダ」ではなくなることで、利用者の当事者意識が高まり、ケアプランへの関心が向上する。
施設サービスでは実質的にケアマネジメント費用を含んだ負担を利用者がしているため、在宅との公平性を確保すべきである。
導入慎重派の論理
有料化による利用控えが起きれば、適切なサービスにつながらず、セルフネグレクトや重度化を招く。
「お金を払う側」と「プランを作る側」という関係になることで、ケアマネジャーの中立性・公平性の確保が困難になる。
特に、施設サービスに近い形態でありながらケアマネジメント費用が別建てとなっている「住宅型」有料老人ホームの入居者に対し、先行して利用者負担を導入すべきだという具体的な提案もなされています。これは住宅型を運営する事業者にとって、営業戦略の転換を迫る大きな動きです。
軽度者(要介護1・2)向けサービスの見直し|給付から「総合事業」へ
要支援者向けの訪問介護・通所介護は、すでに市町村が主体となって運営する「介護予防・日常生活支援総合事業(総合事業)」へ移行しています。 今回の改革議論では、さらに一歩踏み込み、要介護1・2の利用者に対する一部サービス(特に生活援助サービス)も総合事業へ移行させることが検討されています。
移行の真の狙い:人材の最適配置
この提案は、単なる財源抑制策ではありません。第2部で詳述する深刻な専門職不足への直接的な対応策でもあります。限られた専門職人材や財源を、より介護ニーズの高い中重度者へ重点的に投入し、軽度者の生活援助は地域の多様な主体(ボランティアやNPOなど)に委ねるという考え方が根底にあります。
地域格差のリスク
しかし現実には、多くの市町村で総合事業の受け皿となるサービスが十分に整備されていません。地域によってサービスの質や量に格差が生じる恐れがあります。また、要介護1・2であっても認知症を有する方は多く、専門職の関与が薄れることで症状が進行してしまうリスクも現場からは強く指摘されています。
事業所の存続を左右する「人材危機」という現実
財源問題と並行して、あるいはそれ以上に経営者の頭を悩ませているのが、介護業界全体を覆う未曾有の人材不足です。
経営者として直視すべきは、この人材不足が「景気が良くなれば改善する」といった一過性のものではなく、国の審議会が「最重要課題」と位置づける構造的かつ不可逆的な危機であるという事実です。
データで見る介護人材不足の深刻度
以下のデータは、もはや従来の求人手法が通用しないことを如実に物語っています。
2040年の需要予測: 2040年度には約272万人の介護職員が必要とされ、2022年比で約57万人の追加確保が必要です。
初の職員数減少: 制度が創設された2000年以降、介護職員数は右肩上がりで約4倍に増加してきました。しかし、2022年、その数が初めて約2.9万人の減少に転じました。これは『福祉は社会に不可欠なインフラであり、需要がなくなることはない』という業界特有の絶対的な安定感だけでは、もはや人材を引きつけられない現実を突きつけています。
異常な有効求人倍率: 介護関係職種の有効求人倍率は4.02倍。全職業平均の1.10倍を大幅に上回り、一人の求職者を4事業所で奪い合うという極めて過酷な採用環境です。
養成施設の現状: 介護福祉士養成施設の定員充足率は58.5%に留まり、その入学者の半数以上を留学生が占めています。国内の若年層からの供給は細る一方です。
人材確保・定着に向けた国の戦略
この危機的状況に対し、国は以下の多角的な戦略を打ち出しています。これらに呼応した経営戦略を取れるかどうかが、今後の分かれ道となります。
プラットフォーム機能の充実による地域連携
都道府県が主体となり、市町村、ハローワーク、事業者、養成施設、職能団体などが連携する「プラットフォーム」を構築します。個々の事業所だけで採用活動を行うのではなく、地域全体で情報を共有し、人材確保に取り組む仕組みです。
多様な人材の確保と生産性向上
魅力発信: テクノロジー導入が進む先進的な現場の様子を発信し、3K(きつい・汚い・危険)のイメージを払拭する。
定着支援: 賃金だけでなく、テクノロジー活用による業務負担軽減やキャリアパスの整備といった「働きやすさ」を追求する。
「介護助手」の活用: ここが重要です。専門職がケアに集中できるよう、清掃・配膳・備品管理などの周辺業務を切り出し、「介護助手」に担ってもらう「タスクシフト/タスクシェア」が強く推奨されています。
中核人材(介護福祉士)の「山脈型キャリアモデル」
これまでのキャリアパスは、経験を積んで管理職を目指す「一本道」でした。 国が新たに提示するのは「山脈型キャリアモデル」です。これは、誰もが管理職という一つの頂を目指すのではなく、「認知症ケアのスペシャリスト」「看取りケアのプロフェッショナル」「新人育成のメンター」といった、複数の頂(峰)を目指せるようにするものです。 多様なキャリアゴールを用意することで、現場志向の職員のモチベーションを高め、定着率向上を図ります。
外国人材の活用と「共生」
外国人材は、もはや「補助的な戦力」ではなく「必要不可欠な中核戦力」です。 特に、採用ノウハウが乏しい小規模法人でも外国人材を受け入れられるよう、地域全体での生活支援や日本語教育のサポート体制構築が求められています。
現場が変わる|高齢者虐待防止・事故防止への取り組み
財源と人材という経営レベルの議論の先で、改革は日々のオペレーションにも具体的に及んできます。リソースが逼迫する中であっても、より高い品質と安全基準、そして説明責任が求められています。
高齢者虐待防止の強化
これまで規制が比較的緩やかだった有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)においても、虐待防止措置(指針の整備、研修の実施、担当者の設置など)の義務化が大きな課題となっています。コンプライアンス違反は、SNS等での拡散リスクも含め、即座に事業所のブランド毀損に繋がります。
事故報告データベースの構築
介護現場で発生した事故情報を国が一元的に収集・分析するデータベースの構築が検討されています。 これにより、自治体ごとにバラバラだった報告様式や対象範囲が統一化される可能性があります。これは事務負担の軽減につながる一方、全国標準の安全管理水準が求められることを意味します。
当事務所の見解|制度改革に対応し、持続可能な経営を実現するために
ここまで、11月20日の部会で議論された内容を中心に、2027年改革の全貌を見てきました。 「財源の制約」と「人材の危機」。 この二つは、別々の問題ではありません。**「より少ない人数で、より質の高いケアを提供し、かつ収益を確保しなければならない」**という、極めて難易度の高い経営課題として、皆様の目の前に立ちはだかっています。
私たち専門家の視点から申し上げれば、単に「法改正に合わせて規定を変える」「処遇改善加算を取る」といった対症療法的な対応では、これからの時代を生き残ることは困難です。
では、どうすればよいのか。 当事務所では、今回の危機を「事業構造そのものを進化させる好機」と捉えるべきだと考えています。
「人」の定義を再構築する(リテンションこそ最大の攻め)
求人倍率4倍超の時代において、「辞めたら次を採ればいい」という考えは致命的です。
新規採用にかかるコストとエネルギーは膨大です。私は、既存職員の定着(リテンション)こそが、最もコストパフォーマンスの高い採用活動だと考えています。 そのために必要なのは、精神論ではありません。 「山脈型キャリアモデル」を自社流にアレンジし、職員一人ひとりの「働きがい」をデザインすること、そして、公正で透明性の高い評価制度を構築し、「ここで働き続けたい」と思える心理的安全性を確保すること。これら高度な人事労務管理は、もはや総務の仕事ではなく、経営戦略の中核だと確信しています。
「業務」を細分化・再構築する(真の生産性向上)
「忙しい」と嘆く現場には、必ずムリ・ムダ・ムラがあります。
介護助手の活用やICT化を進めるためには、まず現在の業務フローを徹底的に棚卸しし、一つひとつの作業を細かく分解して見直す必要があります。
「専門職でなければできない仕事」と「誰でもできる仕事」を明確に分け、タスクを再配分する。 この痛みを伴う改革を断行できた組織だけが、収益性を維持しながら職員の負担を減らすことができます。
「選ばれる」ためのブランディング
利用者負担が増えるということは、利用者や家族の目がより厳しくなるということです。
「近所だから」という理由だけで選ばれる時代は終わります。
「うちは認知症ケアに特化している」「看取りまで責任を持つ」「外国人スタッフが活躍する国際色豊かな職場である」など、自社の強みを明確化し、地域に向けて発信していく力が求められます。
当事務所は、単なる手続き代行を行う社労士事務所ではありません。
労働法、介護保険法、そして社会福祉法の専門知識を武器に、経営者の皆様と共に「人」と「組織」の課題に20年以上も向き合ってきました。
2027年、そして2040年を見据えた持続可能な経営体制の構築を伴走支援いたします。
この大きな変化の時期を、共に着実に歩んでいきましょう。貴社の今後の発展のために、ぜひ当事務所をご活用ください。具体的な対策や、自社の状況に合わせたシミュレーションをご希望の方は、ぜひ当事務所までお気軽にご相談ください。






