助成金不正受給と社労士の連座制|制度の「信用」を壊さないために

「助成金の申請って、社労士に頼めば大丈夫なんでしょ?」

そう考えてしまうのは無理もありません。けれども、実際の現場では「大丈夫でないこと」が起きています。しかも、その結果として、申請した事業者だけでなく、関与した社労士自身が処分対象となるケースが増えているのです。

実際に起きた社労士による不正関与事案

助成金に関しては、業界に衝撃が走ったニュースがあります。2023年11月、愛知労働局は、都内の社労士法人がキャリアアップ助成金の不正受給に関与したとして、法人名と代表社労士の氏名を公表しました。

手口は、雇用実態と異なる虚偽の雇用契約書などを作成させ、申請を代行していたという悪質なものです。この一件は氷山の一角に過ぎず、過去には雇用調整助成金で社労士が逮捕される事例も起きています。これは、もはや「専門家に任せておけば安心」という常識が通用しない時代の到来を意味します。

知らなかったでは済まされない、社労士の「連座制」

助成金の不正は、申請した法人だけの問題では終わりません。2019年以降、不正に関与した社労士へのペナルティは大幅に強化されました。具体的には、以下のような極めて重い措置が課せられます。

  • 事業主と連帯して返還義務を負う
  • 氏名・事務所名の公表
  • 5年間の助成金申請業務停止
  • 懲戒処分(業務停止・登録抹消等)の可能性

社労士会の対応――制度濫用を防ぐための仕組み強化

全国社会保険労務士会連合会も事態を重く見ており、電子申請では、社労士がこの連座制のリスクを理解・同意しなければ申請手続きを進められない仕組みを導入しています。もはや制度の「信用」を守るため、国も社労士会も本気で不正排除に乗り出しており、厚生労働省でも助成金不正に関与した社労士の氏名・事務所名を公表しています。

その助成金は「目的」ですか? それとも「手段」ですか?

助成金の「目的」とは何か

そもそも助成金とは、国が理想とする雇用環境(人材育成、両立支援、処遇改善など)の実現を、資金面から後押しする政策的「手段」です。
医療・福祉業界で働く皆様の労働環境をより良くし、結果として質の高い医療・介護サービスに繋げる。それが本来の「目的」のはずです。

しかし、いつの間にか「助成金をもらうこと」自体が目的化していないでしょうか?

助成金名制度の目的
キャリアアップ助成金非正規雇用の正社員転換
人材開発支援助成金OJT・Off-JTによる人材育成
両立支援等助成金育児・介護と就労の両立支援
働き方改革推進支援助成金柔軟な労働環境の整備

助成金の「目的化」を避けるための3つの問い

新しい制度導入や研修を検討する際、ぜひ自問してみてください。

  • なぜ、この助成金を活用したいのか?(法人の理念や課題に繋がるか?)
  • もし、この助成金がなかったら、その制度の取組を行うか?(一過性のものでないか?)
  • 助成期間が終わった後も、この取組みを継続する意思はあるか?(法人の文化として根付かせる覚悟はあるか?)

これらの問いに、経営者として、職員の前で、胸を張って「YES」と答えられるでしょうか。

助成金を「血肉」に変える組織の共通点

当事務所では多くの医療法人・社会福祉法人様をご支援する中で、助成金を真に有効活用されている法人には共通点があることに気づきました。

  • 法人の課題(離職率、残業時間、スキル不足等)が明確で、その解決策として制度を捉えている。
  • 経営層が「職員の成長や定着こそが、法人の最大の資産」という確固たる哲学を持っている。
  • 「いくらもらえるか?」よりも「この取組みで組織がどう変わるか?」を議論の出発点にしている。
  • 申請ノウハウを特定の担当者や外部の社労士に丸投げせず、法人内の仕組みとして定着させている。

「申請できるか」の前に、「なぜやるのか」を

助成金の本当の価値は、金額の多寡ではなく、制度がもたらす“変化”にあります。 経営理念・戦略に照らして制度を評価し、単なる給付金としてではなく、組織成長の一環として活用することが重要です。

当事務所のスタンス「申請できるか」の前に、「なぜやるのか」を

「この助成金、うちでも申請できますか?」
このご質問に対し、当事務所が即答することはありません。なぜなら、その問いの奥にある「なぜ、その制度を活用したいのか」「それによって、法人と職員の未来をどう豊かにしたいのか」という経営戦略こそが、最も重要だと考えるからです。

助成金は、使い方を間違えれば不正のリスクを伴う劇薬にもなり得ますが、正しく使えば、法人の理念を実現し、職員のエンゲージメントを高める万能薬にもなります。

目先の給付額に囚われるのではなく、法人の未来を創るための「投資」として助成金を捉える。それこそが、行政からも地域社会からも、そして何より大切な職員からも「信頼」される法人であり続けるための、唯一の道だと私は確信しています。

助成金は“目的”ではない

助成金を活用する際は、「手段と目的を混同しない」ことを常に意識してください。

制度は本来やるべき取組を後押しするもの。制度の“ために”行うのではなく、組織の“未来のために”選ぶ。 そのような助成金活用こそが、経営の信頼性と人材力を高める手段になると、私は確信しています。

「どの助成金が合っているかわからない」「申請できる体制があるのか不安」といった場合でも、まずはお気軽にご相談ください。助成金は“使い方”次第で、経営資源となります。

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